カラマーゾフの兄弟2 (光文社古典新訳文庫)

  • 光文社 (2006年11月9日発売)
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 「大審問官」……居酒屋? でイワンがアリョーシャに「大審問官」を話しています。おそらく著者は、意識的にこのような舞台で作中人物たちに会話、対話をさせています。これの目的の一つは、読者にイワンの物語詩を深刻に捉え過ぎないようにさせることでしょう。イワンほどうまく言語化できなくとも、この物語詩と同じような考えを持った人たちはたくさんいます。イワンの物語詩よりもさらに上手に言語化できる人たちもいます。では、これらの人たちの考えとイワンの物語詩はどこが違うか?

 以下は「解説」や、『ドストエフスキー』(山城むつみ著)を読んだ上での考えですが、イワンは『カラマーゾフの兄弟 4』で「悪魔」と対話しています。「それ」の出現する前触れが『カラマーゾフの兄弟 2』で、居酒屋でアリョーシャと話すイワンの顔の表情や、彼の歩き方に出ています。おそらく著者はイワンの歩き方を、ゲーテの『ファウスト』のメフィストフェレス(「それ」)と重ねています。

 顔の表情は、イワンはアリョーシャに、「『兄さん、話している時の顔がへんです』心配そうにアリョーシャは言った。『なんだか人が変わったみたいな感じで』」と言われています。この時点で「それ」がイワンに取りついていて、イワンの物語詩「大審問官」は、イワンではなく、もう一人の彼(「それ」)がイワンに話させています。著者はアリョーシャに感性、無意識でイワンの「それ」の存在を見抜かせています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年5月15日
読了日 : 2020年5月15日
本棚登録日 : 2020年5月15日

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