面白すぎてメモを取る時間すら惜しい。ノンストップで読了。今の所、「何に熱中したか」と一年を振り返ったら今この時、暴虎の牙を楽しんだ時間を上げるだろう。(注:現在5月下旬)
究極のアウトロー沖虎彦。「ヤクザがなんぼのもんじゃい!」と持てる限りの悪行を繰り返し後に呉寅会なるものを設立。恐喝から強奪、更には殺人までと常人では考えられない行動を繰り返すが、堅気には絶対に手を出さず狙うのはチンピラやヤクザものという何処か正義を感じる信念を持ち、不快感とは無縁の漢だ。そしてまだ小さいその背中にはとても重たい悲しみを背負っていた。
二部構成となっており、前半は若き沖虎彦と三島孝康、重田元の三人が勢力を拡大させる為奮闘するゴリゴリの血と暴力ステージとなる。
それを見守り徐々に彼等に干渉していく今は亡き大上章吾の存在が涙腺を刺激してくる。ほら、もう名前だけでウルウル出来るように調教されてしまっいるぞ。
飄々とした態度で接してくる大上に動揺する沖達だが、如何せん彼らは若い。例え狼が目の前に立ち塞がろうと、構わず突き進む若き虎達。彼等は森を統べる狼に守られていた事など露知らず、自らを守る為に他を喰らい続けた。
後半では時を経て再始動しようとする呉寅会と、大上の意志を継いだ日岡との決戦となる。のだが、どちらかというと主軸は沖虎彦だ。目覚め、再び走り出した虎の視点で景色は進んで行く。
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一作目、「孤狼の血」は漢と漢の仁義の衝突に全身の細胞が興奮し、その痺れは五臓六腑を駆け巡ったものだ。紛れも無く、この時の呉原の抗争が広島内での最凶イベントであった。故に今回の呉寅会の事案はシリーズ最後を飾るにはどうしても弱く感じてしまう。
確かに檻を知らない野生の虎は凶暴だ。彼の通る道には敗者の死体が転がってゆく。しかし、結局は「あの」呉原抗争の前話と後日談だと脳が認識してしまうのだ。
更に大上と日岡の繋がりが無く、過去と現在でしっかり線引きされているのが少し寂しく感じる。【孤狼の血LEVEL2】の日岡が野生の狼の姿を探すあのラストの方が余程完結に相応しくすら感じてしまう。どうやら完結編の扇情ワードに煽られてしまった節があるなぁ。とても面白かったのに勝手にハードルを上げすぎてしまった。
とは言えずっと興奮していたのも事実だ。虎彦の視点で大上を堪能できたのも嬉しいし、ここにも「漢」が居た事に沸き立たない訳が無い。
なんか、戦国時代みたいだ。沖虎彦はさながら伊達政宗といった所だろうか。時代が違えば彼が天下二分の才を奮っていたやもしれない。
強すぎた虎が唯一信じた二頭の仲間。彼は生きる為、守る為に、走って、走って、走り続けた。過ぎ去る景色が早くなると、彼は何を憎み何を守りたかったのか見えなくなってしまった。
先程は戦国時代と例えたが、こうするとまるで「命」をテーマにした御伽噺みたいだ。色んな姿で楽しませてくれた。無論、最高のシリーズだと断言出来る。
- 感想投稿日 : 2022年5月31日
- 読了日 : 2022年5月31日
- 本棚登録日 : 2022年5月31日
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