人はどのように鉄を作ってきたか 4000年の歴史と製鉄の原理 (ブルーバックス)

著者 :
  • 講談社 (2017年5月17日発売)
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本棚登録 : 270
感想 : 21
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 製鉄に関するトピックを羅列した本。章立てがやたら多く、各章の関連が断絶しているところがちらほらしていることや、全体的に筋が通っていないことから、著者が編集委員をやっている雑誌の記事を抜き取ったものと察する(実際あとがきに「連載の一部で構成した」とある。初出時は編集委員だったかは不明)。つまり、タイトルに合った内容ではない。
 ひどい点はたくさんあるが、3点あげておく。まず、製鉄とは鉄鉱石など鉄原子を含む鉱物から鉄単体を分離することと読み取れる説明(反応式出してるんだからそうでしょ)をしているにもかかわらず、その説明が一貫していない。そもそも鉄の単離に関して一切触れられていないし、それは人類が求めた物質ではないことについても言及がない。この点は本書全体を支離滅裂にしているし、致命的である。
 2点目、問題設定と結論がない、又は最後に結論だけで終わってしまっている。各章で閉じているとしても「だから何だ?」としか感じようのない話ばかりである。中間で全く関係ない話を展開し、章のタイトルと同じことを言って締めくくっているような章もある。エッセイならいいかもしれないが、エッセイとしてもはっきり言ってつまらない。
 3点目、実況見分調書を読まされているような単調な文章と図表、写真のまずさ。本書はいっときの事件や事故の証拠を並べているのではない。写真も本文で使わない記号がそのまま入っていたりと、使い回しが目立つ。価格のことは言いたくないが、新書にしては高い部類なのだから、魅力的な記述と資料による補強をしていただきたい。
 鉄は現代の生活には欠かせないし、人類の発展に寄与したことは疑いようもない。その割に、どうやって作っているのか、どのような試行錯誤の上に製鉄技術が生まれたのか解説された本はほとんどない。だからこそこの本を手に取ったのだが、残念で仕方ない。
 最後に、これから本を買うときは、1はしがきを読んで雑誌の抜き取りじゃないか確かめる、2参考文献は入手可能なものが挙げられているか、3(解説書・入門書なら)全体像をつかむ理論的で入手可能な図書が挙げられているか、の3点はこれからよく検討しようと思う。
 星一つは、立ち読みすればダメだとわかるこの本を買わされた、「一本取られた」という意味である。読む価値がないとは言わない、木下是雄『理科系の作文技術』と併せて読むと、科学技術的なエッセイの書き方が上達するのではないかと思う。
 ほかに感想を書きたい本がたくさんあるのに、頭にきてこんな記事を書いてしまった。端緒はともかく、ひとつ創造に至ったという点で、著者と講談社に感謝はしておく。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 手放した
感想投稿日 : 2021年5月17日
読了日 : 2021年5月17日
本棚登録日 : 2021年3月13日

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