数学文章作法 基礎編 (ちくま学芸文庫 ユ 4-1 Math&Science)

著者 :
  • 筑摩書房 (2013年4月11日発売)
4.23
  • (93)
  • (58)
  • (38)
  • (5)
  • (0)
本棚登録 : 1189
感想 : 73
2

 「読者のことを考える」を第一に読みやすい文章(書き物)を作るための指針。
 この本の指針には暗黙のルールがある。それは、書くことがあらかじめ決まっている、ということだ。
 数学は同じ対象について異なる概念がいろいろと定義され、定理、証明と続けられる。扱うものが抽象的なので、道筋も多岐にわたり、知れば知るほど言いたいことがたくさん出てくる、これらを文章の著者が自我の中で「調整する」ことが必須である。一方で、結論も道筋も決まっているのなら、厳密さとわかりやすさを両立させることが求められ、よくある間違いや分かりやすい表記、例の取り上げ方を錯誤し、良い文章に仕上げていくことになる。本書は後者のノウハウを核に、「読者のことを考える」という視点のもと、前者についての筆者の経験をほのかに語っている。
 したがって、漠然と書きたいという熱意をどう表現していくかということについて、積極的な答えはない。「数学文章作法」という題から、いろいろな文脈からあらわれるたくさんの概念を取捨選択し、筋道を立て、結果を仕上げるという創作が論じられていると思っていたので、少し残念である。
 「構成編」と題した続編に期待したい。
 追記、私と意見が合わない点が一つある。それは「問いと答え」のところ、多くの数学書には問題の答えが付されていないことについて。私は問題に模範解答や解答の指針は不要だと思う。理由は二つ。まず、数学といえども答えは一つではないこと。計算問題ならまだしも、証明などは異なる。理解そのものもいろんなあり方がなければ数学は展開しない。だから答えは不要である。もう一つの理由、それは、答えが正しいかどうかは、導き出した人間が「決める」ことだからである。数学の答えは一つというのは迷信である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 数学(一般)
感想投稿日 : 2019年5月25日
読了日 : 2019年5月23日
本棚登録日 : 2015年2月15日

みんなの感想をみる

ツイートする