林真理子の「綴る女」を読む前に知識を入れておこうと読み始めたら、これがまぁなんと極上の世界観。きめ細やかな情景描写と流れるような土佐弁のやりとり。林真理子が何を言うかといった気分になる。
戦争に突入する直前の、女が軽んじられる時代で、しかも家業は娼妓や芸妓を売買する仲介業となればなおのこと、男が居丈高に振る舞うのは仕方がないこと。とはいえ、夫岩吾の仕打ちにはあまりにも腹が立つ。女義太夫との間に子を作り、それを喜和に押し付けるくだりでは怒りで興奮しすぎて寝付けなかったほどだ。謝るどころか、嫌がる喜和に平手打ちを食らわせるんですよ!許せん!令和に生き返って根性叩き直せと言いたい。こういう男たちが日本を無駄な戦争へと向かわせたんでしょうね。
でもそんなモヤモヤした話の内容より何より、宮尾登美子の文運びの素晴らしさですよ。書き出しは楊梅やまももを近所に配って回る緑町での賑やかな1コマから始まり、季節の行事、人との交流を大切にする富田の日常が生き生きと描かれている。他人の出入りが多い、せわしない空気感や匂い、笑い声が伝わってくるようだ。
岩吾から隠居生活を強いられ、部屋で義理の娘と内職なんぞやり始める頃には、読んでるこちらも息苦しくなってくる。最後まで読み終わってからまた最初の楊梅のシーンを読み返すと本当に‥泣けてくる。でも結局、緑町のあの賑やかさの中で喜和は幸せを感じられなかったんだから、喜和の方にも問題はあるのかな。
義太夫の娘綾子のその後を描いた「春燈」「朱夏」も続けて読みたくなった。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ま行
- 感想投稿日 : 2022年2月14日
- 読了日 : 2022年2月14日
- 本棚登録日 : 2022年2月14日
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