ベートーヴェン 音楽の革命はいかに成し遂げられたか (文春新書 1290)

著者 :
  • 文藝春秋 (2020年11月20日発売)
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感想 : 9
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ベートーヴェンの生涯と作品について、簡潔に書かれた新書。しかし、あまりに簡潔に書かれすぎていて、情報に乏しい。特に作曲の経緯や背景などの情報が弱い。ベートーヴェンを全く知らない人が読めば、そのことには気づかないかもしれないが、ベートーヴェンの生涯を描いた本を何冊か読んだことのある人は、物足りなさを感じることだろう。

本書を読んで、一番驚いたのは、不滅の恋人の正体を”近年、ヨゼフィーネ・ダイム夫人が有力視されている“と書いてあったことだ。

確かに、一時期は不滅の恋人=ヨゼフィーネ説も提唱されたようだが、それは20世紀後半の話で、近年では、アントニーエ・ブレンターノが最有力候補である。今世紀に入って書かれた書物の中では、不滅の恋人=アントニーエ以外は目にしたことがなかったが、2020年の出版物でまさか、ヨゼフィーネ説が出てくるとは思わなかった。著者に何かこだわりがあり、ヨゼフィーネ説を書いたのだとしたら、併せてアントニーエ説も書くべきであった。

ちなみに、不滅の恋人=アントニーエ説は、不滅の恋人研究をライフワークとしていた、青木やよひ氏の著作、「ベートーヴェン・不滅の恋人」などに詳しい。

中野氏の著作は何冊も読んでおり、親しみを感じてはいるが、残念ながら、本書はベートーヴェン入門書としては、ちょっとお勧めしにくい。新たな情報があるわけでもなく、著者独自の視点から新たな見方を提示しているわけでもないので、中級者以上には全くお勧めできない。

89歳という高齢で、これだけの文章を書かれたのは、尊敬に値するが、純粋に本の内容だけを評価した場合は評価が低くなってしまう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽
感想投稿日 : 2022年6月3日
読了日 : 2022年6月3日
本棚登録日 : 2022年6月3日

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