片山杜秀の本(2) 音盤博物誌

著者 :
  • アルテスパブリッシング (2008年5月24日発売)
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感想 : 7
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本書の元の記事は、2000年から2008年までレコ芸に連載していた「傑作!?問題作!?」である。その全100本の記事の内、前半の50本が「片山杜秀の本 1 音盤考現学」に、後半の50本が本書に納められている。

1枚のテーマ・ディスクに対する記事なので、落とし所は限られてくる。そういう場合でも、取り上げられている盤がもっと良いものであれば(作曲家、あるいは演奏家がもっと良いものだったら)、もっと面白い話が展開されたのではないかと思われ、もったいないというか、残念という様な気がした。つまり、たまにはテーマ・ディスクに、話題になった盤や、名演や名盤と言われる様な盤があれば、華やかな話題になったのではないか、面白い話が聞けたのではないかということである。

本書は再編されて「音楽放浪記」というタイトルで文庫本にもなったが、取り上げられている盤が時代を越える様な名盤ではないので、賞味期限は短い。
また、月に一回なら面白いと思える記事でも、本としてまとめて読むと、強引な論説が気になってくるというきらいもある。「なるほど」と思わされる回もあるが、著者お得意の思想論でまとめ上げ、これはちょっと付いていけないなと思える回も少なくなかった。もっとも書き下ろしの本ではないので、出来にばらつきがあるのは、ある程度は仕方がないことであるが。

印象に残った記事は、「能とソヴィエト」というタイトルの回である。テーマ・ディスクはアファナシエフによるベートーヴェンのピアノ・ソナタ集。これは、論考ではなく、片山氏がアファナシエフにインタビューした話が載っていて、アファナシエフに演奏テンポの遅さの理由をたずねたら、「フルトヴェングラーの遅くうねる演奏に影響されたことと、能の緩慢な時の流れ、能役者の声の持続に理想の美を見出したことが重なり、今の自分ができた」という。
アファナシエフのあの異常なテンポの遅さは、思想的とか哲学的とかいう言われ方もしていたが、そんな単純な理由だったのかと驚いた。あの演奏スタイルは、ただの美意識や好みの問題からきているわかり、謎が解けたようで嬉しかった。

初回限定特別付録として、巻末に袋とじになっていた対談「カタヤマモリヒデの作り方」は、片山氏がどのように育ってきたか、どのようなカルチャーに接してきたかが分かり、興味深く、面白く読んだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 音楽
感想投稿日 : 2023年3月27日
読了日 : 2023年3月27日
本棚登録日 : 2023年3月27日

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