黒蜥蜴 江戸川乱歩ベストセレクション (5) (角川ホラー文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2009年1月24日発売)
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感想 : 65
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江戸川乱歩はいくつか読んだが、最も有名とも言える「黒蜥蜴」を読んだことがなかった。
明智小五郎の不死身さが胡散臭くて避けていたのだと思う。そこがいいところだと若いわたしはわかっていなかった。青いな。

今回、本屋さんでたまたま見かけて、百合の花が大きく描かれた表紙が綺麗で手にとってそのまま無意識に購入してしまった。こちらのサイトでは漫画みたいな購買意欲を低下させる表紙になっているけれど。
今更江戸川乱歩を平積みしている理由は、自宅でテレビを見ていて気づいた。
ドラマ化されたらしい。
ちなみに明智小五郎役は渡部篤郎さんらしい。ちょっとイメージじゃない。
小さい頃テレビで明智小五郎を演じたのは天知茂さんだった。明智小五郎といったら天知茂さんでしょう。
天知茂さんの訃報を知ったとき、なぜか天知茂さんは死なない気がしていて驚いた。きっと明智小五郎と勝手に重ねていたのだと思う。
昔のドラマって、今だと考えられないくらい無駄に入浴するわベッドに雪崩れ込むわ、お茶の間に変な空気をさせたものだった。母親が明らかにそわそわしながら必ずお茶を淹れに行って、父親が脈絡なく話しかけてきたことを思い出す。

明智小五郎はやはり不死身だし、そんなわけないじゃんみたいに都合のいい展開も多い。
でも、江戸川乱歩らしい美に溢れた作品だった。
江戸川乱歩にリアリティを求めるのは野暮というものだろう。
物語がはじまって35分くらいを過ぎると、必ず水戸黄門や暴れん坊将軍が大活躍、そんな予定調和が安心して観られる時代劇のいいところ。それと同じ。
明智小五郎は、撃たれても爆破されても突き落とされてもへっちゃら。入院して寝込むなんて生々しい姿は見たくない。
江戸川乱歩の描く醜悪な美を楽しむことこそが醍醐味だと思う。

「パノラマ島奇談」や「人間椅子」から引っ張ってきたような描写もあり、ああ、江戸川乱歩を読んでいるなあと楽しませる。
ただ、黒蜥蜴を黒トカゲという表記にしてしまったことは残念。難しい漢字表記のままであれば、より江戸川乱歩の世界に相応しくなるに違いないのに。
久しぶりに小さい頃のことも思い出せて、懐かしい気持ちになれた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2016年1月12日
読了日 : 2016年1月6日
本棚登録日 : 2016年1月4日

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