現在はゆとり教育が否定され、脱ゆとり教育などと言われているようですが、この本は、ゆとり教育がまだ推進されていた2002年に出版された本です。
この本が指摘していることは、「ゆとり教育が必要」とした根拠が、実にあいまいであるということです。例えば、中学3年生の帰宅後の勉強時間というデータが紹介されていますが、1975年をピークに勉強量は減り続け、2000年においては、ほとんど勉強しない、毎日ではなく、ときどき勉強するが、実に半数という結果が示されています。つまり、子どもたちは、少なくとも勉強が忙しくて生活にゆとりがないという状況にはなかったことが分かります。
にもかかわらず、詰め込み教育や受験地獄という言葉ばかりが強調され、子どもたちが勉強漬けの生活を送っているかのような錯覚を抱いてしまい、ゆとりのある子たちにさらにゆとりを、つまりゲームをやる時間を与えてしまったわけです。
さらに、教育改革と言いながら、具体的な手段や方法論を欠き、学校や教師任せの、例えば総合的な学習の時間のような、無責任な改革が進められていることも後半では指摘されています。問題認識があいまいなだけでなく、解決策もあいまいな改革がうまくいくはずがありません。
もっとも、教育の難しさは検証の難しさにあります。人間の子どもが相手ですので、動物実験のようなことをするわけにはいきません。少なくとも、結果はどうであれ、よいかどうか分からないことはできないので、よいと信じてやるしかないわけです。しかも、一人の子にとってよいことが、他の子にとってよいかは分かりません。それでも、区市町村単位、都道府県、国単位で施策を決めていかなければなりません。
ゆとり教育は、今となっては否定的な評価に落ち着いてしまいましたが、次の脱ゆとり教育にしても、将来の評価はまだ分かりません。教育改革に携わっている人はもちろん、これから携わろうとしてる人も、ぜひこういう本を読んで、教育に対する見方を広げて欲しいものです。
- 感想投稿日 : 2014年4月20日
- 読了日 : 2014年4月19日
- 本棚登録日 : 2014年4月20日
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