贈与論 (ちくま学芸文庫 モ 11-1)

  • 筑摩書房 (2009年2月10日発売)
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贈与論
人やモノを全て含んだ円環状の贈与体系をトロブリアントの民族からの実地調査をもとに検証している。また、贈与をするための霊的な感覚による根拠(ハウなど)を同時に示し、人類の経済の基層に贈与・交換があることを明らかにした。
ハウとは、何か物を与えられたら、人に与えなければならない。そうしないと、落ち着かないという気持ちを霊的存在に見立てて解説したものである。モノをもらっても人にあげなければ、ハウという悪い神が持ち主をどんどん蝕んで最後には殺してしまうというのである。これは、ものではわかりにくいが情報ならどうだろう。噂話を聞いたら人に語りたくなってしまう気持ちは、ハウによるものではないかと思う。円環状の贈与形態について、トランプをしていて気づいたが、ババ抜きは円環状の贈与形態のアナロジーではないかと思う。人からカードを受け、人にカードを渡す。そして、負ける人間とは、人に渡せない唯一のカード(ジョーカー)を最後に持っていた人である。このジョーカーを、持ち主を最後には殺してしまうハウに見立てるのは不自然ではないはずだ。時々思うのであるが、カードゲームや占いなど、古くから非科学的でありながら人々に親しまれてきたものには、何かしら人間の根本原理ともいえる真理を抽象化した形で内包しているのではないかと思うのである。情けは人の為ならずという日本のことわざも、贈与論の円環状の贈与形態の話をしているのかなと思う。
映画「ペイ・フォワード」は私の好きな映画の一つではあるが、これは典型的に贈与論的下敷きがあると私は思う。恩を受けたら、もらった恩をその人とは異なる3人の人に贈る、「恩送り」運動を少年が企画して、ロサンゼルスで一大ムーブメントを起こすというこの映画は、今や英語の教科書でも取り上げられている。
様々な経験的な具体例を挙げてきたが、人間は常に贈与・交換をする動的なシステムにいるという点は、レヴィ・ストロースに繋がっていると実感できる。本自体について言えば普通だが、脚注が膨大なので内容は少しだからすぐ読めた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2015年5月24日
読了日 : 2015年5月19日
本棚登録日 : 2015年5月19日

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