未来をつくる言語 ドミニク・チェン
読了後の感想は様々あったが、かなり忘却してしまった。
読み直してなおよかった部分を引用する。
そもそも、コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受けとめ、それでもなお共にあることを受け入れるための技法である。「完全な翻訳」というものが不可能であることと同じように、わたしたちは互いを完全にわかりあうことなどできない。それでも分かり合えなさを繋ぐことによって、その結び目から新たな意味と価値が湧き出てくる。現代の情報環境で、見知らぬ他者と教材感覚を得られる範囲は依然として狭いままである。スマートフォンやPCのスクリーンの向こう側にも自分と等しく生命的なプロセスを生きる同輩が存在しているのだという当たり前なことを、理性だけではく身体にも訴える「言語」が必要である。(中略)互いの一部をそれぞれの環世界に取り込みつつ、時に親として、また別の時には子として関係することができる。そう望みさえすれば、人は誰とでも縁起を結び、互いの分かり合えなさを静かに共有するための場をデザインできる。なぜなら、私たちは自分たちの使う言葉によって、自身の認識論を変えられるからだ。差異を強調する対話以外にも、自他の境界を融かす共話を使うことによって、関係性の結び方を選ぶことができる。
あらためて振り返れば、家族、社会、自然環境との関係における分裂に抗うための方法を探ろうとしてきた。自分自身の中にも吃音というわからなさが同居しているし、多言語の翻訳だけではなく同じ言語の話者同士でも意思の疎通が図れない状況を当事者として生きてきた。いずれの関係性においても、固有のわかりあえなさのパターンが生起するが、それは埋められるべき隙間ではなく、新しい意味が生じる余白である。こうした空白を前に、わたしたちは言葉を失う。既に存在しているカテゴリに当てはめて理解しようとする誘惑にかられる。しかし、じっと耳を傾け、まなざしを向けていれば、そこから互いを繋げる未知の言葉があふれてくる。わたしたちは目的の定まらない旅路を共に歩むための言語を紡いでいける。
- 感想投稿日 : 2022年12月29日
- 読了日 : 2022年10月29日
- 本棚登録日 : 2022年10月29日
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