忍びの国 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2011年2月26日発売)
3.79
  • (378)
  • (726)
  • (525)
  • (77)
  • (19)
本棚登録 : 5079
感想 : 577
5

2022年3月6日読了。

戦国の時代。
伊勢国を完全掌握した、かの織田信長ですら容易に手を出せない国があった。
それこそが隣国『伊賀』
忍びの軍団である伊賀者の尋常ではない強さを察知し、「虎狼の族が潜む秘蔵の国・伊賀には手を出してはならん。」と過剰なまでに慎重を期していた。

しかし、その言葉を裏返しの意味、つまりは『お前の力で伊賀を討ち取ってみせよ』と受け取った男が1人。
信長の次男・織田信雄。
信雄は重臣どもの不満を感じ取りながらも、日置大膳・長野左京亮・柘植三郎左衛門らを引き連れ、伊賀攻めを決める。


一方、その伊賀国。
他国ではその地域を支配する戦国大名が生まれている中、伊賀国では領主というものが存在せず、66人もの小領主(地侍)が乱立し、常に互いが互いを討ち滅ぼそうと小競り合いを起こしているような国であった。
討伐・殺戮を好み他人を思いやる気持ちなど微塵も持たず、親子親戚であろうがお構いなく騙し、出し抜く事を至上とする伊賀忍者の巣窟であるこんな国にも一つの掟が存在する。
『伊賀惣国一揆』なる同盟が結ばれ、「他国の者が伊賀に入った際は、惣国一味同心してこれを防ぐこと」

66人の地侍から選出された『十二家評定衆』と呼ばれる12人は、隣国『伊勢』を制圧した織田軍が伊賀へ攻め入ってくる事を懸念していた。
十二家評定衆の1人である・百地三太夫は「敢えて攻め込ませ、織田軍を打ち破る事により、伊賀の武名を天下に轟かす。さすれば、他国からの下人どもの注文が増え、我らは儲かるということよ」と策略を練る。

その百地家の下人である、1人の忍び。
伊賀一の腕と評される、通称『無門』
腕が良いのをいいことに、非常ななまけもので、主の三太夫の命令すら断る有様。
更に、西国から攫ってきた美女・お国には稼ぎの少なさを咎められ頭が上がらない。
そんな不甲斐ない無門もまた、十二家評定衆の謀略に乗せられ、戦へと駆り出される事になっていく。


初の和田竜氏の作品。
「竜」と書いて「りょう」と読む事を今回初めて知った。
普段まったく読まない時代物へのチャレンジ。
しかし、時代物という事をほとんど感じさせず、とても読み易かった。
そして何より一言、とても面白かった。

実際にあった『天正伊賀の乱』という史実に沿ったストーリー展開。
異様な伊賀忍者達の心理や、様々な忍術描写や解説。
人と人との心情の変化や葛藤。
スリリングな戦闘シーン。
無門とお国のコミカルな会話。
まったく期待していなかったが、ここまで楽しめるとは思わなかった。

織田信雄と日置大膳。
長野左京亮と柘植三郎左衛門。
仲違えしていた状態から、互いに分かり合う場面は胸熱展開。

天下一の織田信長という男を父に持った事への重圧・自責の念を信雄が吐露する場面は目頭が熱くなった。

無門が主役であり伊賀サイドが正義であるはずなのだが、信雄サイドに感情移入してしまい織田軍こそ正義として読み進めていた。

参考文献の量もとてつもなく、歴史的勉強にもなったし、『葉擦れの術』や『骨格を自在に操る術』等、忍術の知識も蓄える事が出来た。
忍びの術の基本中の基本は嘘であり、人の「心」を読み解き、その「心」につけ込むことで勝ちを得る事こそが忍びの術の真価なのだそうだ。

無門の強さが最早、スーパーヒーロー過ぎる点など気になる所もあるが、今まで毛嫌いして手を付けずにいた時代物というジャンルの裾野を広げてくれた一冊として高評価を付けたい。
『のぼうの城』『村上海賊の娘』など、著者の他作品も読みたいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年3月8日
読了日 : 2022年3月8日
本棚登録日 : 2022年2月23日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする