オーバーロード1 不死者の王

著者 :
  • KADOKAWA/エンターブレイン (2012年7月30日発売)
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感想 : 70
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 今期のアニメ「OVERLORD」に大層ハマった私は、気づけば小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載されている原作を一晩で読み漁り、ついにはこの書籍版にまで触手を伸ばしていた。若干ややこしいのでこの作品群の流れを説明すると、まずオリジナルの「なろう版オーバーロード」があり、それを書籍販売するにあたって改稿や新規エピソードなどを追加した「書籍版オーバーロード」、次いでその書籍版をアニメ化した「OVERLORD」といった形になる。ネット小説を超えて書籍化し、文字媒体を超えてアニメ化まで果たしたこの作品はまさしくエンタメの垣根を越えていく超越者(オーバーロード)って感じだ。

 その超越者っぷりは話の内容にも如実に表れていて、「なろう作品にありがちなMMORPGモノねー」と思いきやまず主人公はオンラインゲームの世界からファンタジーな異世界に飛ばされる。そして主人公は滅茶苦茶TUEEEのだ。ちなみに主人公は邪悪な魔法を操る骸骨のアンデットでもあったりする。つまりはMMORPGモノでありながら異世界ファンタジーモノでもあり俺TUEEEモノでもあってダークヒーローモノだったりすると。いやいやなんでしょうこの盛り具合は。属性てんこ盛りが当たり前になってきているサブカル界隈でも驚きの要素ペガサスMIX盛り状態である。

 これだけ聞くとセンセーショナルに流行りの要素をただ積み重ねただけに思えるかもしれないけれど、その考えはきっと間違っている。アニメ化をするにあたって監督を務める伊藤尚往も述べているが、この作品からは「原作の丸山先生の勤勉さとその物量と世界観の作り込みの半端なさ」がとにかく伝わってくるのだ。それがこの「オーバーロード」をここまで面白い上質な作品たらしめていると私は思う。ファンタジーやゲームのような世界を創作する時、作者の労力は個人的に現実を下敷きにしたフィクションを創造する場合の何倍もの労力が必要とされると思う。何故なら作者は異世界を創造するにあたって、現実には存在しない生物や魔法といった現象を考えるだけではなく、時にはその世界の物理法則といった細かいところまで考えなければいけないからだ。これは所謂「設定」という奴だけど、この設定をどこまで細かく作り込めるかで創造する世界の説得力が変わってくる。ただ忍者が火を吹いて敵を攻撃するのにも、その過程に「チャクラ」という設定があるのとないのでは説得力と面白みが大分変わってくるはずだ。「オーバーロード」では作者によって積み上げられたそんな細やかな設定たちが、一見異なる様々な要素を見事に調和させ、それぞれの良さを十二分に活かしたものにしている。

 またこの作品では様々な要素をテンプレとして取り込むにあたって、それぞれの要素の良さを活かすだけではなく、それらの弱点を上手く回避しようとしているふうに見える。例えば俺TUEEEモノの弱点は読んで字のごとく主人公が強すぎることだ。能力的にも精神的にも完全無欠な主人公では読者も「どうせまた勝つんだろう」と飽きがきてしまう。では「オーバーロード」の主人公はどうだろうか。作中の主人公は飛ばされた異世界のなかで神にも匹敵する力を持っている。しかし精神的には非常に脆い。圧倒的な力で敵を倒した主人公は真っ先に「え? 相手弱すぎない? 嘘嘘! こんな訳ないよ!」と思い悩む。実際に自分がこの世界において最強の部類であると自覚しても尚、「俺の力、強すぎ……!?」と驚くのである。しまいには、神にも等しい力を持つ主人公に人々が畏敬の念を示すと居心地が悪くなってしまう始末だ。つまりは読者が主人公の力に引くより先に、主人公自身が己の力にドン引いている。他にもダークヒーローたる主人公は一貫して悪役を貫いている。利用のために人間に好意的に接することもあるけれど、基本的に人間を虫ケラ同様に認識している。ままありがちな展開として決して途中で正義に転向することもないし、悪役の定めとして負けることも決してない。個人的な話になってしまうけれど、テレビの前でバイキンマンを一生懸命に応援し、ロケット団の完全勝利を待ち続けていたような子供だった私としてはこれが大変楽しい。この主人公は映画の時に良い奴としてサトシを助けないし、アンパンマンを無力化させた後は油断せずに生産者たるバタコにジャムおじさんまで血祭りにあげ完全勝利を得るような痛快無比の悪役である。

 こういった工夫が随所随所に施され、作品をより面白いものにしている。他にも伝えたい良い部分が沢山あるのだけど、いささか長文になりすぎたのでそろそろ筆を置こうと思う。作者の丁寧な物語の作り込みにテンプレを用いながらその定石を破っていく話の展開。この「オーバーロード」はあらゆる部分でこれまでのものを超越していこうという気概を感じさせる作品だ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2015年8月22日
読了日 : 2015年8月22日
本棚登録日 : 2015年8月22日

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