新装版 富士山頂 (文春文庫) (文春文庫 に 1-41)

著者 :
  • 文藝春秋 (2012年6月8日発売)
3.60
  • (8)
  • (36)
  • (25)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 277
感想 : 35

会社に来ていた方の講演内で話題になっていたので手に取ってみた。
半分弱は気象レーダー設置案件を通すための官僚的な折衝、その後は実際の工事、台風接近による対応といった形で物語が進む。

折衝がほんとうにめんどくさそうだなとは思うところはあるものの、全体的に富士山自体が醸し出す特別感が良くも悪くも、登場人物たちに影響を及ぼす様子が印象的だった。
====
富士山という日本の象徴に結局は無条件降伏したまでのことであった。だが、彼には、そのときはそれで立派な理由に考えられた(p.13)
==
「ひとつお願いがあるのですが」
伊石監督が葛木に云った。
「この富士山の工事に関係した人の名前は同銘板にきざみこんで、レーダー観測塔の壁に貼りつけるから、しっかりやってくれと作業員たちに直接云っていただきたいんです」(p.132)
====

本書を読んでいる最中にタイムリーに槍ヶ岳に行くことになったので、テントの中でも読み進めた。
後半は実際の山のシーンが多く登場してくるので、体感を持ってレーダー設置の困難さを実感しながら読むことができたと思う。
====
「葛木君、あの検査官の三人は山に強いぞ、山に強い人は、七合あたりから激しい頭痛が始まって、頂上につくころにはもう山の大気に馴れてしまう。つまり山酔いの反応が早く現れて早く消えるものだ」(p.201)
==
葛木はその直径12インチのブラウン管の中に、おさめ取られた広大な範囲の、電波的景観に、打たれたように見入っていた。大アンテナが廻転する音が頭上でした。その大アンテナのパラボラから、2メガワット(2000キロワット)という、強い電磁波が富士山頂から見えるかぎりの地形に、丁度富士山頂に強大な光源を置いたと同じように、照射されているのである。葛木の家に当ったその電波もこの富士山頂に返送されて来ているだろうし、北アルプスの槍ヶ岳の頂上に立っている数人の登山者からの反射波も、ブラウン管上の白い映像の一点を形成していることは間違いなかった」(p.204)
====

読み進めているうちに、実際に槍ヶ岳の山頂に到達。実際にそこに立ってみると遠くに富士山がちゃんと見える。壮大な風景の中で、電波が行き交っているのだなと、普通に読む以上のバイアスはあるかなと思いつつ、本書を数倍楽しむことができた気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年9月25日
読了日 : 2023年9月25日
本棚登録日 : 2023年9月25日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする