理論疫学者・西浦博の挑戦-新型コロナからいのちを守れ! (単行本)

制作 : 川端裕人 
  • 中央公論新社 (2020年12月8日発売)
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専門家会議の内幕がわかって面白い。突然分科会に変わった(ように見えた)理由、専門家会議と分科会の違いもよくわかった。

2月14日に専門家会議はじまる。座長は脇田。厚生省内にできたクラスター対策班はエマージェンシーオペレーションセンターとして作ったとか。
当初専門家会議は、科学的分析のみ、厚労省とは、米CDCと保健省の関係を目指したが、後に政策までやっていると受け取られ、政治もそれを利用して責任転嫁していくこととなる。

当初、2次感染者数のばらつきが大きいのでこの感染症は絶滅しやすいと思ったという。そこから3密を避けようと言う呼びかけになっていく

DP下船者を電車で帰したのは、当時相当叩かれたし私も違和感を持ったが、今になってみると正しかったとわかった。当時からウイルスを排出する時期は分析できていた。

欧州から一日何人入国で流行がおこるよという予測。これは覚えていたが、このとき入管に関して相当やりあっていたのは官官の話なのでニュースになりにくかったからか印象にない。
「3月は空から次々と焼夷弾が降ってきているような状態」
海外からの渡航者はこう見えていたという表現が印象的。とすれば五輪で海外から何万人も入ってくるのは恐怖でしかないよなあ。やめてって話になるのは当然。

夜の街など感染源を名指しで発表するとき、小池も厚労省も逡巡し、西浦の口から言ってくれといわれる。

4月15日に出した死亡者42万人の予測は、厚生省内でオーソライズして出したのに西浦ひとりの説みたいになっている不思議。厚生省内でも出すなという意見が多かったので報道の際に責任を西浦に擦り付けるようなレクがされてたのかも。
厚生省はグラフは出しても数字は口にするなまで言ってとめようとした。パターナリズムと西浦は言うけど隠蔽体質じゃないかこれ。緊急事態宣言が4/7だったしそのときはもう減り始めてきていた。私には何をいまさら感があった。最悪想定だがその最悪コースからはすでに外れている時点なので。4/7の前にはできていたのでそのとき見たなら印象も違ったろう。最悪想定であることを理解しない批判は論外だがいまだに見られる。

渋谷健司などワイドショーでコードとデータを出さないのはおかしいという批判するのを気にする周りの人。データは出したいのに厚生省がOKしないので困ったとか。データのほとんどは都道府県の公開情報から作っているのにかかわらず(最重要の分析チームなので特別に内部データにアクセスできると思っていたので驚き)。
分野が近い人口学とか数理生物学の人は何も反応がない反面、物理や情報科学の人がどんどんモデルをいじくって予測を発表し始めたのはうれしかったとか。Nが小さいとき、人口学的確率性を使えばなおよいのだとか。西浦らは発症日ベースの数を、発症後日数別確率を使う複雑な方法で出していたのも再現できないといわれた理由のひとつ。

このころ西浦は、尾身、押谷とでほぼ毎日西村と面会していたという。アベノマスク発表のとき尾身は西村にマジ切れしていたとか。

3月ころから、厚生省に発表文書を勝手に書き換えられたり、
内閣から大事な話を前日通知され渋々通すしかなかったなど、思うような発信ができなかったとか。そのためにTwitterアカウントを作ったがそれにも一苦労。

専門家会議の解散は、「専門家の判断で決定」と西村など政治家が言うなど、政治が責任転嫁をする発言があいつぐのに反発する形で申し出たのが真相だという。彼らが卒論と呼んだ意見発表の会見中に初めて知らされる場面が記憶に残り、官邸が勝手にやったのかと思っていたが違った。
経済の専門家も入れ、政策提言を行う分科会をつくり、その下に厚生省アドバイザリーボートとして科学的分析のみするという体制になった。

ワクチン順位を問われて、初期の北海道のデータを使えば、高齢者からだが、第2波のデータを使うと若者から打ったほうがいいとなるのだとか。高齢者が自粛をきちんとした結果で、行動変容が感染動態をも変えるのが興味深いとか。
ただ自粛に協力しないことにより優先されるのは釈然としないし、極論すれば重症化する人口がすべてワクチンを打てばその時点で弱毒の感染症になってめでたしとも言えるわけで。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年7月6日
読了日 : 2021年6月23日
本棚登録日 : 2020年12月19日

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