作者が若い頃、自分の文学を確立ようともがいていた様を綴った、回顧的成長譚。
同じ世代で一歩も二歩も抜きん出ていた芥川龍之介や菊池寛とのエピソードや、彼らに対する自身の心情がとても細かく、そして素直に書かれている。
はじめは対抗意識や憧れと劣等感が大きかった彼らとの関係も、二人や周りの作家に認められ、また自身の強い苦悩や努力を経て、肩肘の張った二人との関わり方も変わっていく。
ついに自分が書くべきもの、憧れる二人にあって自分にないものをはっきりと見つける瞬間がくるのだけど、そこに至る流れが、熱い。
作者が見つけた文学の大切な部分は、物をつくることだけではなく、人との関わり方や、人生を味わって生きていくためにも大切なことだと思う。
二十歳くらいの頃読んで、とても熱い気持ちになった覚えがあるけど、今回はもう少し落ち着き、そうだよね、といった強い同意的な気持ちで読んだ。
しばらく空けて再読するのも面白い。
芥川と菊池の創作スタイルの違い、つまりは思想の違いなどは、近くで見ていた人ならではの感じ方で味わい深い。
また、全体を通して文章の肌触りが良く、活字を読んでいるのに美しい字を読んでいるような気持ちになった。
本書の解説によると、眼中の人とは「常に眼中にあって忘れられない人」とのこと。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年1月2日
- 読了日 : 2021年1月2日
- 本棚登録日 : 2021年1月2日
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