仕事小説でもありながら友情物語でもある…というとても心温まる物語である。
ところどころに(エッセイでお馴染みのユーモラスセンスが見える)面白い三浦しをん節を覗かせてくるのも良い。
実直で人柄の良い老舗ホテルマンの続力と飄々として掴みどころのないイケメン書道家の遠田。
書道教室で子どもたちに若先(わかせん)と懐かれながら筆耕の腕もあり、規律と自由が混在した文字で指名もある。
初対面から自由さと砕けた感じだが、嫌な気はせず小学生の代筆のお願いについつい乗っかり、そこから親しくなっていく。
あらゆる字を書く器用な書家というイメージが、漢詩の書を見て悲しみが胸に迫ってくる感じがした。
遠田の筆運びはなめらかで無駄がなく、文字の黒と画仙紙の白のゆらめくあわいに、のめりこみ溶け込んでいきそうに見えた。
眼前の文字に書家の姿、書家の思いや多摩市も含めた森羅万象が映しだされる。
遠田の書に真剣に向き合う姿を見て、どんな人物なのかますます知りたくなるのと、いっしょに過ごす居心地の良さに教室へ足を向ける頻度も多くなっていく力。
しばらくして遠田からホテル宛に、筆耕士の登録を解除していただきたいとメールが…。
彼の過去が関係していたのだが…。
書家とホテルマン、2人のキャラも好ましいうえにカネコもそろりと出てくるのも良い。
書家になるまでの遠田の生きざまにも驚かされるが、手を差し伸べてくれた遠田夫妻も凄い人物だったのだ…。
しかし、書家としての才能や並々ならぬ努力もあったうえでの今なんだろうと想像できる。
彼らとまた会えるだろうか…。
文字は人の心を映しだす。
書くことが少なくなってきたが、自筆の文字は味わい深いものがある。
綺麗じゃなくても丁寧に…と一文字一文字心を込めてと常に思う。
- 感想投稿日 : 2024年1月25日
- 読了日 : 2024年1月25日
- 本棚登録日 : 2024年1月25日
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