剣嵐の大地 (下)〈氷と炎の歌 3〉(ハヤカワ文庫SF1878)

  • 早川書房 (2012年10月23日発売)
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感想 : 23
5

 私が遅々として読み進めているうちに、『氷と炎の歌』は『ゲーム・オブ・スローンズ』のタイトル(これは原書第1部のタイトル)でTVドラマ化されて、DVDボックスも出た。ちょっと見てみたい気もするが、小説のほうだけでも膨大で一気通読といかないでいるのに、ドラマまで付き合えるかという気持ち。
 さて──

 北部の〈壁〉の向こうでは七王国ウェスタロスの支配にない〈野人〉たちが〈壁〉を越えてウェスタロス領内に攻め入ろうとしている。それを偵察に出たジョン・スノウは〈野人〉に身をやつし、スパイとなって動静を探っているが、〈野人〉といっても、獣人なのではなく、なかにはウェスタロスを捨ててきたものもおり、統治システムから逸脱した自由な野人たちの生き方にはジョンも魅力を感じ始める。統制のとれない〈野人〉をとりまとめて、七王国への侵攻を率いているマンス・レイダーもかつて〈壁〉を守る〈冥夜の守人〉だった男であり、人間的魅力を放っている。このまま〈野人〉の一員として過ごしてもいいのではないかという葛藤も起こってくる。
 そしてついに始まる〈壁〉への侵攻。〈冥夜の守人〉が壊滅的打撃を被る中、しかしジョンは迷うことなく〈冥夜の守人〉として行動に出る。そのとき、彼が一回り大きくなったことをわれわれは知るのだ。
 そしてジョンが庇ってやっていた臆病者のサムウェル・ターリーもこの危機の中で大きな成長を示す。

 総帥を失い、〈壁〉も乗り越えられてしまう危機にある〈冥夜の守人〉は、ウェスタロスの乱立する王たちに救援の手紙を送っている。ところが王位を巡る抗争に明け暮れている王たちは北の守りに注意を払っている余裕はない。北からウェスタロスに野人たちが攻め入り、さらにそのあとから人ならぬ〈異形〉が入り込んでくるかも知れないという重大な危機に心を寄せるものはいないのだ。
 ただひとり、ダヴォス・シーワースを除いて。ここ、ワクワクするな。

 ウェスタロスの中心では、北の王ロブ・スタークはラニスター家当主タイウィンが糸を引くフレイ家の陰謀で謀殺され、鉄諸島の王ベイロン・グレイジョイも事故死、王を名乗った弟レンリーを謀殺したスタニス・バラシオンは王都攻略に失敗して手ひどい打撃を受けていて、かくて少年王ジョフリー・バラシオンを戴いたラニスター家のひとり勝ちに見えていた。ところが少年王は婚礼の席で毒殺され、ティリオン・ラニスターと結婚させられていたサンサ・スタークは混乱に乗じて、宮廷から救出される。その手引きをしていたのは、かつてサンサの母キャトリンを愛した、あの陰謀家。ティリオンはといえば、ジョフリー毒殺の嫌疑を着せられる。そこにようやく戻ってきたのは、ティリオンの兄にして、皇太后サーセイの双子の弟であり愛人である、今や片腕の騎士となってしまったジェイミー。ラニスター家にも激震が走っていく。

 『王狼たちの戦旗』下の書評で、この物語のテーマは愛と名誉だろうかと述べたが、ラニスター家は天下を取りながら愛を失い、スターク家の子どもたちはその素性を隠さねばならない、すなわち名誉を失った状態にある。そして本巻では、「壁」でも王都でも、そして海の向こうでも、新たな秩序が台頭し始めることが描かれる。

 海の向こう、エッソスを彷徨うターガリエン家の末裔デナーリス。騎馬民族の夫を失い、ごく少数の家来を残した状況で、とても七王国の玉座を狙えるような状況ではなかったが、運は次第に彼女に味方する。
 去勢奴隷兵士の軍団〈穢れなき軍団〉を買い取ったデナーリスは、奴隷を解放し、そこから雪だるま式に大軍団と付き従う民を手に入れるのだ。そこで彼女はまず女王となろうとする、すなわち統治能力を示そうとする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史小説(マンガ)
感想投稿日 : 2016年2月10日
読了日 : 2016年2月10日
本棚登録日 : 2016年2月10日

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