ザ・トレーディング──心理分析・トレード戦略・リスク管理・記録管理

  • FPO (2019年3月1日発売)
3.94
  • (5)
  • (6)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 293
感想 : 6
5

旧著に比べかなり読みやすくなっているというのが率直な感想です。難しい内容を噛み砕いた表現を用いて記述しているところは、著者が精神分析医というところに起因しているのでしょう。
心理的な部分と技術的な部分がバランスよく採用されているので、バイブルとして読み親しまれてきたことにも同調できます。チャートの図解がすべてカラーに刷新されているところやスピン(しおり紐)が付いているところも読者としては嬉しいポイントです。

“数十年に及ぶトレーディング人生を通じて学んだ重要な教訓の集大成”と著者自身が語るように心理面の構築から具体的なトレード技術、さらにマネジメントにいたるまで幅広く網羅されています。1993年に米国で出版された旧著Trading for living(邦題『投資苑』)は世界的ベストセラーですが、本書は旧著執筆時にはなかったテクノロジーの進化を反映し、さらにビルドアップされた改訂版となっています。内容もさることながら、チャート解説もわかりやすくカラー表記されているので、読みながら迷子になることがありません。

また旧著が出てから20数年経過するも、同じ翻訳者をこの改訂版においても抜擢しているところも特筆すべき点といえるでしょう。翻訳者は世界銀行の債券ポートフォリオマネージャーとして金融市場でアクティブな資産運用を手掛ける福井強氏。つまり、今でもマーケットの最前線に携わる人物ならではの言葉のチョイス、表現のセレクトが随所に活かされています。

まったくマーケットのことを知らない翻訳者がどれほど綺麗な言い回しをしようと、実際に相場を経験している者からすれば、机上の空論と揶揄されることがあるかもしれません。しかし、福井氏の場合はそのキャリアからして、すべての罵詈雑言をシャットアウトするといっていいでしょう。

約500ページにも及ぶ本書をはじめて手にした際、読書慣れしていない人なら一見身構えてしまいそうなボリュームがありますが、その心配は読みすすめるごとに払拭されていくはずです。なぜなら、著者は現役のトレーダーでありながら精神分析医という肩書きを持つ特異な人物だからです。

したがって、私たちが日常生活のなかで何気なく経験していることを、本書解説のなかで、わかりやすい具体例として盛り込むよう努めていることが窺い知れます。難解な専門用語を並べた所見や、難読なカルテを見せられても、提示された治療法を患者が理解することは困難だと言えば理解しやすいかもしれません。つまり、著者はトレードに何らかの障害を持つトレーダーにとって正真正銘のドクターなのです。

マーケットが市場参加者たちの心理の集合体であり、価格が彼らの思惑を総括する決定事項であるならば、心理を読み解く技術は相場で勝つための学習において必須項目です。そして、市場参加者たちの心理の軌跡がチャートに表されているというならば、テクニカル分析を極めることは、心理を学ぶ延長上にあると考えるのが自然です。

本書では、もはや世界的に認知されている王道テクニカルをはじめ、具体的なトレーディングシステムの領域にまで踏み込んでいます。なかでもトリプルスクリーンの概念は長くトレーディングで成功するための本質と考えるべきです。そのほか出来高や時間の考え方、マーケット全般を分析するための指標、そして最も重要なカテゴリともいえるリスク管理にも当然ながら触れています。本書から得られるものは、継ぎはぎだらけの知識や技術ではなく、基礎から築き上げていくトレーディングの学習です。わずかな揺れではビクともしないスタンスを作り上げてくれます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 投資
感想投稿日 : 2022年2月15日
読了日 : 2019年3月28日
本棚登録日 : 2022年2月15日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする