「建築物の描写がうまい小説家」と杉江松恋さんが小野不由美さんを評していたのが気になって読みました。「奥庭より」の冒頭からびしびしその空気を感じます。
説明を重ねれば重ねるほどわかりにくくなりがちな建築物の描写。表現力の拙い私なぞは諦めて図面をつけちゃいたい!とさえ思うのですが、本書では実に明解なイメージとともに、入ったこともないその家の姿を浮かび上がらせてくれます。登場人物の背景に常にある「家」をきちんと描いているからなのでしょう。
生きていけばぶち当たる、自分の思い通りにならないこと。「イエ」もそのひとつ。自分の努力でどうにもできないことの裏には凄まじい執念や怨念などの魔が宿りやすいものです。「家」は籠もる人間の想いを静かに見つめる目撃者であり、その想いの障りから守る庇護者であり、凄まじい怨念を抱かせる原因の束縛者でもあります。
本書ではびっくりするぐらい依頼者の「なぜ?」「どうして?」には答えてくれません。なんでかはわからないけど、こうすれば対処ができる。対処しか出てこないのは、問題の原因を探っても、それを根本的に変えることができないからなのではないでしょうか。努力で変えられない問題のほうが、生きていくうえでは多いように思います。
本書の一番最後に収録されている「檻の外」は、対処できない問題にがんじがらめになっているのが私自身だったらどうすればいいのか。そうした場合においての作者からの答なのだと思います。
読書状況:読み終わった
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一読者として
- 感想投稿日 : 2015年10月21日
- 読了日 : 2015年10月21日
- 本棚登録日 : 2015年10月20日
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