完訳グリム童話I さようなら魔法使いのお婆さん (角川文庫 ク 11-1)

  • KADOKAWA (1999年6月24日発売)
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本棚登録 : 140
感想 : 10
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ここでは、以下の三冊の本を用いて、「シンデレラ」のお話について比較・考察を試みる。

『ペローの昔ばなし』シャルル・ペロー/白水社
『完訳グリム童話Ⅰ』グリム兄弟/角川書店
『本当は恐ろしいグリム童話』桐生操/KKベストセラーズ

 子供向けの童話に何が書かれているかを簡単にまとめる。裕福な家庭に生まれたシンデレラは、幼い頃に母親を亡くし、新しくやってきた継母と義姉に虐待されながらも美しく育つ。ある日、お城で王子の結婚相手を探すために舞踏会が開かれることになり、継母たちはきれいなドレスを着て舞踏会に参加するが、シンデレラは置いていかれてしまう。シンデレラが悲しくてしくしく泣いていると、魔法使いのおばあさんが登場し、魔法でシンデレラにかぼちゃの馬車、ドレス、硝子の靴などを用意してくれる。12時までに戻らないと魔法がとけてしまう、という忠告を受けたあと、シンデレラはお城へむかう。舞踏会では、シンデレラは王子様と夢のようなひと時を過ごすが、12時の鐘がなったとき、慌ててその場から逃げ出し、その途中で硝子の靴が片方だけ脱げてしまう。シンデレラはなんとか家に戻ることができたが、魔法はすっかりとけてしまい、ボロの服とただのかぼちゃに戻ってしまう。王子様はシンデレラの身分も名前も知らないので、残された片方の靴を頼りにシンデレラを探すことにし、硝子の靴がぴったり合う女性と結婚するというお触れを国中に出す。シンデレラの家に家来がやってきたとき、まず義姉たちが靴を履こうとするが足が大きすぎて靴には入らない。しかし、シンデレラが靴を履くと、彼女のためにあつらえられたかのようにぴったりであった。ポケットから残りの片方を取り出すと、みんなは驚くが、王子様はシンデレラを舞踏会で踊ったかの女性だと認めた。その後、お城で結婚式が開かれ、シンデレラはいつまでも幸せに暮らしました。めでたし、めでたし。というものである。

 今回、様々な本を読み、どうやら実際の話は子供向けの話とだいぶ違うらしいことがわかった。「シンデレラ」のお話に登場するヒロインは、一般的には「シンデレラ」という名で通っているが、グリム童話では「灰かぶり」、ペローの昔話では「サンドリヨン」という名前である。「シンデレラ」、「灰かぶり」、「サンドリヨン」、どれも差別的なあだ名であり、ヒロインの実際の名前は本文中には書かれておらず、謎のままであった。
 また、魔法使いのおばあさんや妖精が登場し、かぼちゃの馬車やきれいなドレスや硝子の靴を魔法で出してくれるという話は、元々のグリム童話には存在しない。父親がお土産で持って帰ってきたハシバミの枝を母親の墓の近くに植え、その成長した木の枝に止まった小鳥たちが用意してくれたり、母親の旧友であるおばあさんが、母親にお金を預かっており、そのお金を何らかの方法で少しずつ増やして用意してくれたりする話が元々のもので、魔法は後から付け足された話らしい。舞踏会に二回も三回も行くというのも面白かった。ドレスも回を重ねるごとにグレードアップするし、硝子の靴が登場しないお話もあった。代わりに、銀の靴や金の靴が用意されるのである。
 それから、グリム童話では残酷さが際立っていた。義姉たちが靴に足を入れるために足の指や踵を包丁で切り落とすという場面が登場するのもその一つである。当時の社会では、性をほのめかす表現は徹底的に批難されるにも拘らず、残酷さは許容されていたらしい。継母や義姉たちが目を潰され盲目になってしまったり、焼靴を履かされて踊り続けて死んでしまったり、というような残酷な結末は有名だが、焼靴などは実際に処刑や拷問をするときに使われていたものらしい。
 しかし、ペローの昔話にはその残酷さが全く見られなかった。舞踏会で際立って美しかった親切なお姫様がシンデレラだとわかった義姉たちは、それまでのシンデレラに対する態度を改め、数々の非礼を詫び、シンデレラはそれを許し、義姉と裕福な男性との結婚の世話までしている。見事に「めでたし、めでたし」という終わり方だった。しかも、どうやらペローの昔話の影響から残酷さのない無害な話が語られるようになり、魔法使いの原型である仙女が登場するようになったらしい。ペローの昔話には、最後に「教訓」という項目があることにも驚いた。
 ドイツ民族の統一を目的として書かれたこと、ゲルマン民族の歴史を背景にして生まれた物語であることなども興味深かった。子どもの頃、この話を読んだときには、シンデレラと継母・義姉たちの関係にどうしても目がいくのでそれほど気にならなかったのだが、今回改めて読んでみることで大変気になる人物がいることに気づいた。シンデレラの父親だ。再婚した妻(継母)の言いなりになって、シンデレラが苛められていても何も言わない父親という存在にはどうしても納得がいかなかった。当時のドイツでは、父親が家庭に一切口出ししないような社会だったのだろうか?なんだか悲しかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆絵本・童話
感想投稿日 : 2011年10月13日
読了日 : 2007年12月13日
本棚登録日 : 2011年10月13日

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