死体の経済学 (小学館101新書 17)

著者 :
  • 小学館 (2009年2月3日発売)
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「おくりびと」が話題になってから納棺師を志願する人が増えたらしい。本作の受賞により納棺師が世に知られるようになったとはいえ、葬儀屋業界において未だ不透明な部分は多い。本著は著者が足掛け五年におよぶ取材を通して葬儀屋ビジネスについて記したものである。

① 情報の非対称性

親族の遺体を公園などに遺棄するというようなおぞましい事件の報告が近年多発している。彼らは動機について問われると葬儀を行う金がなかったからという。確かに葬儀の費用は231万円と一般的に安いものではない。しかし最近では料金プランも多様化し数万円の割安プランなど選択肢の幅はひろがっている。にもかかわらず未だに葬儀に高いイメージが根強いのは葬儀ビジネスの閉鎖性によるものであろう。田舎では未だにお坊さんと同じように葬儀社に心づけという形で渡すことも少なくない。加えて病院が葬儀屋を紹介することもあり選択肢を狭めている。一方でこの様な閉鎖性が逆にお葬式の「儀式」としての側面を強めるとの声もあり一概に閉鎖性を否定することも難しい。ただその「金ではかることの出来ない」点のみを取り出し不当な利益を得やすいことも事実である。

② かつてのビジネスモデル

葬儀屋の主な業務は「レンタル業」「遺体に触れるサービス」「運搬」「販売」「専門業者への手配」の五つである。かつての葬儀業においては前者二つが主な収入として機能していた。遺体を冷やすドライアイスは基本的に工場の排気より生成されるのでほとんどタダ同然で手に入る。しかし葬儀ビジネスにおいては十キロ1万円で取引されている。また祭壇のレンタルは元値が300万ほどで耐久年数は十年ほどであるのに、レンタル料は50万~100万程度であり利潤が大きい。暴利ともいえそうな価格設定だが、近年では祭壇の個人発注や後述するエバーミングなどの導入によりこのようなモデルは揺らぎ始めている。

③ エンバーミング

エバーミングとは遺体の血液を抜き代わりにホルマリンを主とした保存液を注入し劣化を防ぐ技術である。エバーミング自体は海外では普及しており新しい技術ではないものの、日本では全体に占めるシェアは非常に少ない。近年ではドライアイスを使った場合よりも自然な状態を保つことができ50日程度も耐えられるとのことから技術的に再評価されている。加えて感染症などのリスクも低下する。とはいえ設備と教習に月100万円ほどかかり料金は20万~30万と利益は少ない。ゆえに導入の増加はゆるやかであるが組合は積極的にエンバーミングの推進を行っている。

もう一冊がヘビーだったので軽いものをと手に取ったが、雑学的な知識や筆者の体験談はそれぞれ興味深かった。しかし経済学と冠している割には数字も口伝の不正確なものが多いように感じた。

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感想投稿日 : 2011年10月17日
本棚登録日 : 2011年5月14日

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