「ダブル・ジョーカー」
結城中佐率いる“D機関”の暗躍の陰で、もう一つの秘密諜報組織“風機関”が誕生した。どちらかが生き残る。表題を含めた5篇を収録。
ジョーカー第2弾。結城中佐と風戸中佐の構図を明確に表した表題「ダブルジョーカー」ではD機関の活躍以外に一般の娘の活躍と天保銭と統帥綱領という軍人の核を突く展開にやられました。また、結城中佐が締めくくるラストもよかったです。魔王としての凄みが抜群です。
「蠅の王」も同様にスパイ同士の戦いです。しかし、敵となる脇坂は社会の現実を知り、変革の為に身を投じるわけで、今までとは違う要素が盛り込まれていたと思います。今までは、純粋に戦争で勝つということの上に物語が成り立っていた気がしますし。
ラスト2篇も面白いです。「柩」では、スパイは見えない存在であり続けなければならない、という、殺すな、死ぬな、に並ぶ結城中佐のスパイ像が存分に描かれています。結城中佐と因縁のある敵将が気づいた頃には時既に遅し。しかも、敵将を欺くのは死んだスパイと結城中佐。つまり、彼は生と死のスパイにしてやられたわけです。しかし、見えない存在であり続けることが存分に描かれたということは、スパイがまさに見えないということ。よって、結城中佐と死した真木の活躍は最小限、しかし、最小限過ぎると感じてしまわなくもない。
「ブラックバード」は前作にも描かれた「スパイは囚われてはならない」がメインです。確か前作では、D機関の飛崎は昔仲の良かった女性と容疑者を重ね合わせ、その結果、真相に気づけませんでしたが、今回は仲根が兄への想いに囚われてしまいました。
私はジョーカーシリーズの2作を読んで、柳氏はスパイを主人公にしたエンターテイメントだけでなく、人はスパイになりきれないのかも知れない、しかし、それは大切なことかも知れないということも読者に提供しているのかも知れないと思いました。なぜなら、前回の飛崎と今回の仲根が囚われたものはスパイである前に人間である彼らにとって、大切なものであるからです。
現実の戦争に絡めてあるという点がミソ。
- 感想投稿日 : 2012年11月11日
- 読了日 : 2012年11月11日
- 本棚登録日 : 2012年11月11日
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