砕かれた鍵 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2014年3月20日発売)
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感想 : 121
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「砕かれた鍵」
MOZUシリーズ第3弾。


MOZUシリーズとしては第2弾「幻の翼」で稜徳会事件は一段落した中、今回倉木達が挑む事件は、デカすぎます。


麻薬密売を内偵中の警部補が殺害された一件から続く警察官絡みの事件が続発する。巨大な陰謀と闇が潜む事件のうねりは、倉木夫婦をも飲み込む。うねりの奥底には、警察官のモラル低下や労働組合結成、公安庁設置、そして民政党を巡る争いと警察組織に根付き蔓延る問題が埋まっているのだ。


そして、今回の事件は今後を左右する大きなターニングポイントになっています。百舌とは違う種の狡猾非道さを持つ殺人者とそれを支えるもう一人の犯人と倉木達の死闘は、MOZUシリーズの中では最も危険で最も悲しいものとなっており、倉木の決心、美希の執念、大杉の愛情とどれも特大のインパクト。特に倉木と美希に関しては、イメージ撤回で謝らねばならない。それくらい2人のアイデンティティの強さを感じる。


因みに、前作に続く倉木と美希の情交場面や美希の異常な性愛嗜好は、ジェームズ・H・チェイスに倣ったからなのですね。ハードな戦いや倉木のサディスティックな暴力も同様にチェイス趣向が盛り込まれたからとのこと。この趣向が早く続きを読むよう強烈な暗示をかけることに一役買っているのは間違いないです。


読了後、思ったのはドラマ基準のMOZUシリーズとしてではなく、作者定義の公安シリーズとして捉えるべきだと言うこと(いや、そもそも公安シリーズが正しいわけで、こっちのアレなんですけどね)。


秘密工作員のように謎めき情報を得難い公安警官キャラを主人公に据え、警察組織の矛盾と戦う。一匹狼じゃないと面白くないと考える作者の気持ちが倉木に乗り移っている。だからこそこれだけの吸引力があるシリーズなのだろう。これ読んじゃったら次を読まざるを得ない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年8月29日
読了日 : 2018年8月29日
本棚登録日 : 2018年8月28日

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