春を嫌いになった理由 (光文社文庫 ほ 4-4)

著者 :
  • 光文社 (2010年2月9日発売)
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感想 : 259
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「春を嫌いになった理由」
誉田哲也初期作品。


今やジウシリーズ、姫川玲子シリーズ、武士道シリーズといった警察小説や青春小説のイメージが強い作者だが、初期は伝奇、ホラー作品も執筆していた。2002年には「ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華」で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を、2003年には「アクセス」で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞している。「春を嫌いになった理由」もホラー路線の一冊である(かなり、オカルト寄りな気もするが)。


主人公は、通釈者志望の実質無職で霊能力者が嫌いな二枚目半な秋川瑞希。テレビプロデューサーの叔母の名倉織江から霊能力者・エステラの通訳兼世話役をむりやり押し付けられた瑞希は、番組スタッフと共に若い男の幽霊が目撃されるという交差点に訪れる。


が、訪れた現場でエステラはとんでも無いことを言い出す。交差点近くの廃ビルに男の死体があると言うのだ。そして、実際に調べてみるとエステラの言う通り、ミイラ化したら死体が発見する。超能力が信じられない瑞希は、織江ら番組スタッフがエステラと組んだヤラセの可能性を疑うが、またまたエステラがとんでも無いことを予知する。


この瑞希を主人公にした物語と並行して展開されるのが、中国からの密入国者・林守敬(リンソウチン)をめぐる物語である。こちらは瑞希のような二枚目半キャラもいなく、中国から日本への過酷な旅や妹・従兄との日本の暮らし(こちらも過酷)、そして、新宿歌舞伎町で最も恐れられている男「月(ユエ)」との邂逅とコミカル要素は全くなし。


当然この二つの物語は交差していくのだが、瑞希は置いてきぼりになる。何が何か分からずにエステラに突っ走られ、織江にかき回され、テレビ番組作りの都合に巻き込まれる。結局、最後にとっておきの活躍の場が用意されているが(あれだけ嫌いだった超能力に最後気に入られる形となるとは瑞希の心境はどうだったのか)、ちょっと同情するほどの目の回りようだ。


瑞希が超能力を嫌いになった理由が重いが、瑞希の二枚目半と織江との掛け合いがコミカルな分、全体的に読みやすい。因みにホラー・オカルトも薄めなので、そこを期待すると物足りないかも知れない。


さて、タイトルの「春を嫌いになった理由」の理由だが、てっきり重いと思いきやコミカルな理由であった。が、それで引き受けてはいけないよ、瑞希よ!

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年11月3日
読了日 : 2018年11月3日
本棚登録日 : 2018年10月26日

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