「微笑む人」
理解できない犯罪が、一番怖い。
「人は他人のことをどれくらい理解できるものだろうか。わかっているつもりで、本当は何一つ知らないのではないか」。「夫や妻、子供、親、友人、会社の同僚といった自分がよく知っているつもりの人のことも、「何一つ知らない」のではないかという現実を小説に起こしたのが「微笑む人」だと思います。
☆あらすじ☆
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エリート銀行員の仁藤俊実が「本が増えて家が手狭になった」という理由で妻子を殺害した。逮捕された仁藤は、取り乱すことなく、淡々と供述し、柔和な笑みを絶やさなかった。彼はどんな人間だったのか。仁藤の周りの人間に仁藤の印象を聞いたところ、返ってくる言葉は人格者・良い人というものばかり。仁藤さんは、本が増えたという理由だけで、殺人を犯す人物ではないと。小説家の「私」は、それでも一抹の疑念を払しょくできずに仁藤の過去を調べ続け、ある真実にたどり着く。
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物語は、仁藤俊実という誰に聞いても好印象な人間が、なぜ愛すべき妻子を殺すに至ったのか、その理由を小説家「私」が、仁藤の周囲の関係者に取材にいくことで探っていく形で進んでいきます。会社の同僚、後輩、同期、学生時代の友人たち、刑事など多くの人物が、仁藤という一人の人間を一体どうみていたのか、特に友人や会社の関係者は、彼をどこまで理解していたのか。
知っていると思っていた人を実は知らない。そんな怖さが徐々に顔を出し、聞けば聞くほど仁藤が何を考えて殺人に染めたのかがだんだん見えなくなっていく。現実世界では「本が増えて家が手狭になったから殺す」という動機は流石にあり得ないと信じたいが、実際「カッとなって殺した」という動機が存在しているだけに、不条理は存在する。その不条理に対してどのように向き合うべきかを問うています。
そして最後の締め。仁藤の柔和な微笑みが、何を考えているかわからない不気味な笑みに変わり、真相は闇の中へ。ようは、すっきりと謎が解けないわけです。これは、ミステリーとしては消化不良。しかし、人はどのような理由で殺人を犯すのか、常識では考えられない犯罪が増えていく現代社会とは何かを、読者一人ひとりに考えてほしいとのメッセージという点では、Good。
とはいったものの、個人的には消化不良感が。「私」は、”彼が殺人を犯すなんて考えられない”、”仁藤さんみたいな人格者もいるんだ”といった善人の側面を知る中で、彼の異常性についても少しずつ知ることになる。さらに、重要人物”ショウコ”の登場により全てが引っくり返るような伏線が出てきて、どうどんでん返しが起こるのかと言うところまで来たかと思ったんですが、最終的に綺麗に終わりません。
仁藤が、なぜ殺人を犯したのか。その動機(おそらく異常な)を明確にしたうえで、常識では考えられない犯罪に対する警告を打つという形でもよかったんじゃないでしょうか。
- 感想投稿日 : 2016年10月30日
- 読了日 : 2016年10月30日
- 本棚登録日 : 2016年10月30日
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