他の小野寺作品にもよく出てくるらしい三葉市という架空の町を舞台にした短編集。
かなり近い地域を舞台にしているものの、各話につながりはなく、登場人物も重複するようなことはない(他の方のレビューによると別の作品に登場する人物はいるらしい)。まずはその潔さに好感を持った。山本幸久、辻野深月らの諸作品、MCUなど、最近は作品や登場人物のつながりを楽しませる小説や映画やアニメなどが多く、世界の広がりを感じさせてくれて楽しい趣向ではあるのだが、だれもかれもがその手法を使いだして少々飽きてきだしていた。
この本では、あえてそのつながりを持たせず、短編一つ一つで物語を独立させることで、タイトルの(町の隅)感を出している。あえて人のつながりを整理していくことで、つながり間を際立たせる。断捨離や「引き算の料理」に通じる手法。素晴らしいと思う。
物語の一つ一つも、派手さや大きなドラマがあるわけではないが、なんとも優しく温かくて、人生をきちんと生きてみようかなと思わせる作品ばかり。気持ちをお風呂に入れたような温かさとすっきりさを味わえる。
どれも良い短編だが、強いて上げれば「君を待つ」と「10キロ空走る」、おそらく意図的に対極の物語にしたこの2つ。前者の圧倒的熱量の愛情と、後者の敗地にまみれてからつけるけじめ。どちらもいざというときに必要になる心の持ちようを予習(場合によっては復習)できるお手本作品、
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
日本小説
- 感想投稿日 : 2022年5月23日
- 読了日 : 2022年5月23日
- 本棚登録日 : 2022年4月28日
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