憚(はばか)りながら

著者 :
  • 宝島社 (2010年5月15日発売)
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本棚登録 : 677
感想 : 96
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ある専門分野で著名な人間が一般向けに本を出すことがある。プロ野球選手なら野村克也が多かったし、将棋なら羽生善治が多い。
このような書籍でおもしろいのは、その専門分野での話である。のだが、どうしても一般向けを意識するせいか(主に編集の意図なのだろうが)、強引に一般社会での話に繋げるところがある。たとえば、野球のチーム論がサラリーマンの組織論に適用されたりする。それが正しいか誤ってるかは置いておくとして、たいていは、特殊な世界でのおもしろい話が凡庸なつまらない話に落とされてしまう。

本書のまえがきで「チンピラの分際で憚りながら一言だけ、この国や社会に、もの申させていただこうか、と。」とある。たしかに本書で、後藤忠政は社会に、政治に、他国にまで一つひとつ語っている。語り口も丁寧である。
しかし、あまりにふつうすぎる。いわゆる保守的なおじさんの常識的視点であり、退屈である。「ヤクザもこんなふつうのことを考えているんだ」という意外性を感じるひとはいるかもしれないが。

本書でおもしろいのは、やはりヤクザとしての非常識な話である。
私は先日の池田大作死去に伴い、たまたま本書の存在を知って読んだのだが、創価学会との協力と闘いの顛末や、池田の品のなさも知れたし、政治家たちとのつながりもおもしろかった。当然、抗争の話も多いので、そのあたりも興味深く読める。

クマを飼っているくだりもよかった。若い衆に散歩させているらしい。ある時、ガサ入れにやってきた警察が麻酔銃も携行してきたとのこと。それに対する後藤の一言は「うちのクマは優しい」。

あとはヤクザは肝臓の病が多いらしい。アルコールはすぐに想像がつくが、入れ墨で汗腺を取るため老廃物が汗で流れず体内に溜まってしまう、というのは、言われてみればたしかにそのとおりなのだが、これまで想像したことがなかった。この手の、経験者にしか思い至らないくだりは本書に多く、そこはおもしろかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年2月8日
読了日 : 2024年2月8日
本棚登録日 : 2024年2月8日

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