漢字が日本語をほろぼす (角川SSC新書)

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  • 角川マーケティング(角川グループパブリッシング) (2011年5月10日発売)
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田中克彦さんは、日本語は漢字がなくても存在する、むしろ、漢字が日本語を悪くしている、ほろぼすと考える人である。ぼくも「ほろぼす」とまでは言わないまでも、基本的には田中さんの考えに賛成である。本書は、その田中さんが言語学という広い視点から、日本の漢字の問題を縦横無尽に論じている。話はあっちこっちに展開することがあるが、読者はそれが脱線だとは思わない方がいい。田中さんの考えでは、言語とは音であり文字ではないというもので、これは、日本で文字形態素論を唱えた森岡健二氏らに対する批判である。日本語は「かな」がふさわしい表記で、これをローマ字に分解する必要がないという論に対する批判もよくわかる。同音語をいちいち言い換えなければいけない言語というのはけっしてまともな言語ではないというのも理解できる。ミルという日本語は漢字で書かなくても意味はわかるし、また漢字を使う必要がないというのは、早く奥田靖雄や宮島達夫に論がある。田中さんは、漢語ですら漢字を離れられることを、朝鮮語におけるハングルや漢語の一種であるトンガン語(橋本萬太郎さんの研究がある)がキール文字で書かれることを強調する。ただ、ぼくがひっかかるのは、「漢字はことばをこえて理解される。それゆえ、漢字はことばではない」(p162)といいながら、孔子学院が孔子学院漢字というものを定め広めれば、グローバルコミュニケーションに大いに役立つという点である。漢字は言語によって意味が違うことが少なくない。二字からなる漢語ではなおさらだ。それでも漢字を普及させようと言うのだろうか。

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感想投稿日 : 2011年8月31日
本棚登録日 : 2011年8月31日

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