私に似た人

著者 :
  • 朝日新聞出版 (2014年4月8日発売)
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本棚登録 : 756
感想 : 130
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テロをテーマにした10篇からなる短編集。
各話は独立した話ではなく、どこかで登場人物がつながった短編集になっている。
それがこの本の主題に合っている。
社会や人間はどこかでつながっている。
そう読み手が自然に感じる事により、本全体に深みや厚みが感じられる。

ここで描かれているテロは組織的な大がかりなものではなく、「小口テロ」と呼ばれる個人が起こしたもの。
そして、その小口テロを起こすのはワーキングプアと呼ばれる、世間的に貧困層に属する人々。
彼らの裏には「小口テロ」を扇動する「トベ」という人物の存在がある。
「トベ」に触発され、テロに走る人々。
そして、大切な人をテロにより殺された人。
「トベ」を追う刑事。
「トベ」殺害を企てる人。
ワーキングプアの人たちを蔑み見下げる主婦。
自分も「トベ」になろうとする人。
この本には様々な人物がテロに対する自分なりの考えをもち、行動する。
自分の今いる生活環境や立場から。

この本のタイトルにもなっている「私に似た人」がその中にいるだろうか?と思ったけど、どうもどの人も違う・・・と思った。
ただ、人を富裕層、中間層、貧困層と分けて、自分は貧困層の人とは違う、と区別する人には嫌な感じを受けた。
そういう人を非難した人に似てると言えば似てるのかもしれない。

でも、考えてみれば、その人たちもテロや閉塞感のある今の時代やこの国について自分なりの考えをもっている訳で、最も悪いのは何も考えない人ではないか、と思った。
自分はそういうのとは全く無縁の所にいて、そんなことを問題としてとらえる事すらしない人、または自分がその中にいても目の前の手軽なもので思考を止めてしまった人。

・・・と、こんな風にいろいろと考えさせられる本でした。
悪意は悪意を呼び、連鎖していく。
自分は無縁だと思っても、どこでそんな悪意にぶつかるか分からない。
最初に書いたようにそれは社会や人はどこかでつながっているから。
それを考えずにいるという事こそが人として危ない事でないかな?とそんな自分なりの考えをもちました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 貫井徳郎
感想投稿日 : 2015年4月8日
読了日 : 2015年4月8日
本棚登録日 : 2015年4月8日

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