3編からなる青春小説集。
「雨はあした晴れるだろう」の主人公は、姉の夫-義兄に密かに恋心を抱く女子高校生。
「この重きバトンを」は、年老た父親に甘やかされて育てられ、我儘に成長した青年が主人公。
彼は父親から一冊のノートを渡され、今まで知らなかった父親の壮絶な半生を知る。
「茨の陰に」は、選挙に当選するためならどんな汚いことでも平気でするという町長一家の次女が主人公。
二つの顔を使い分ける老獪な父親、若い愛人をもつ母親、それを知りながらその愛人と関係をもつ姉。
そんな中にあり、次女の主人公とまだ幼い長男は日々傷ついてゆく。
登場人物は今正に青春時代を送っている若者たち。
そんな彼らが、苦悩し、迷い、傷つきながら成長していく姿が描かれています。
かなり時代を感じる本でした。
例えば、「雨はあした晴れるだろう」の女子高生は、自分の好きな男性以外には手も握らせないという潔癖さをもち、「この重きバトンを」では年老いた父親が幼い頃から丁稚奉公に出て苦労に苦労を重ねた姿が描かれている。
そして言葉遣いや会話も丁寧で、いかにも古風で品がいい。
「茨の陰に」に出てくる教師と生徒たちのやりとりを見ると、私の世代ですらこんな心の通ったやりとりはなかったと思い、ほほえましさを感じました。
また、いわれない中傷を受けた同僚をかばったり応援する教師たちを見ると、この時代はまだまだ「おかしい」事を「おかしい」と言える正義ある時代だったんだなと思い、羨ましいと思いました。
物語の中にだけでもこういう世界が存在している事に、ホッとした気持ちになります。
一本気で純粋な主人公たちを見ていると、自分はいつの間にこういう感情をなくしてしまったんだろうと思いました。
- 感想投稿日 : 2013年7月16日
- 読了日 : 2012年1月22日
- 本棚登録日 : 2013年7月16日
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