〈格差〉と〈階級〉の戦後史 (河出新書)

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  • 河出書房新社 (2020年1月25日発売)
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感想 : 10
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サンデルさんの著作を読んで日本の格差の状況を詳しく知りたいと思い購読。格差社会、ワーキングプア、アンダークラスなど、格差を示す単語が広まったのは比較的最近のことで、ちょっと前まで一億総中流とか言ってたなあと思うが、考えてみると、歴史上格差がなかった時代なんてなかったわけで、貴族や武士が実権を握っていた時代は日本版カースト制度がキッチリ決まっていて、武士でなければ切られても文句言えない時代が何百年か続いていた。この伝統的な格差が一気に縮小したのが敗戦。農地開放や財閥解体により資本家層や華族の没落と小作人や女性の地位向上が進展。その後の高度成長で恩恵を受けた国民は多かった。また、階層間流動性も比較的高かった。ただ、80年代の規制緩和や新自由主義の台頭、90年台のバブル崩壊、就職氷河期、00年台にはフリーターや非正規雇用者の増大により、トップ層とボトム層の距離の拡大と、各階層の固定化が進む。これを助長したのが学歴偏重。2011年の大震災で格差の議論はやや収まるが(それどころではなかった)、冒頭に挙げた実感は、定着しつつある。小泉改革を格差拡大の最大の原因とする向きが強いが、それ以前から格差拡大と定着の傾向はあったわけだ。自民党支持層には「再分配否定派」が多く、配当や相続税減税、所得税の累進率軽減など、トップ層に優しい政策が支持されやすいこと、トップ層になりやすい高学歴層は他のイシューも含めて投票率が高いことなども明らかにしている。政治にとって投票しない人はいないのと同じ。さまざまな格差問題を議論する人は、少なくともこの一冊は読んだ方が良い。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年7月12日
読了日 : 2021年7月12日
本棚登録日 : 2021年5月18日

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