時代の“先”を読む経済学 (PHPビジネス新書)

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  • PHP研究所 (2011年3月19日発売)
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伊藤元重著「時代の先を読む経済学」PHPビジネス新書(2011)
*経済学の考え方には3つの潮流がある。1つは市場主義あるいは自由主義という考え方ですべてのことは市場にゆだねておくというのがベストであるという考え方。この立場は市場に対してきわめて楽観的であり、政府による介入を嫌い、市場の調整能力に高い評価をおいている。リーマンショック前まではこの考え方が有力であった。しかし最近では安易な市場万能主義には批判もおおい。2つ目はケインズ主義である。市場は不完全なものであるため、政府による介入や公的規制が重要であるという立場である。第二次世界大戦後から30年間近くは先進国でこの考え方が有力であった。リーマンショック以降もケインズ主義の復活かと思えるほど多くの先進国でこの考え方が行われていた。ケインズ主義には市場に懐疑的な面があるが、政府の適切な介入やコントロールがあればそれなりに経済を正しい報告に導く事ができるという楽観的な面ももっている。3つ目の考え方であるオーストリア学派と呼ばれる人たちの考えである。その代表的な論者の一人がシュンペーターである。その典型的な考えは創造的破壊と呼ばれるモノである。経済が変化するとき、あるいは社会が変化するとき古い産業や企業はトウタされ、それに変わることで新しい産業や企業が出てくるというものである。この考え方はある意味では社会の変化に対して厳しい見方である。ただ、今の日本はある程度このかんがえかたを受け入れざるを得ないのではないかと思う。
*日本の産業は「自分たちより所得の低い国」への輸出をあまり得意としてこなかった。だから今後は今までの成功体験は通用しない。低コスト製品を生み出す新しい技術は、これまでの製品やサービスの常識からは未熟なようにうつるが、一般顧客の視点から見れば、それで十分という事が少なくない。(タタの低価格自動車、5万円パソコンなど)
*経済は3つの目で見る必要がある。1つがマクロで見通す力「鳥の目」、2つ目はミクロを見る力「虫の目」、もっとも重要なのが「魚の目」であり、潮の流れの変化を見る目という事であり、変化を感じ取れるかという事である。
*日本市場の大きな問題点は、ほどほどに大きな市場であるという事である。だからリスクを冒して積極的に海外展開をしなくても国内市場の中での矮小な競争の中でなんとか生きてこられた。しかし、その間に外の世界の市場はどんどんと変化し、特に新興国市場をどう開拓するのかが大きな課題となっている。
*流通、マーケティングの今後を読むヒントとして、旧来のマスマーケティングでは問屋やメーカーの力が大変強かったのに対して、最近のサプライチェーンでは小売業が主軸になるチャネル形成が行われている。チャネルリーダーが上流から下流のほうにシフトしつつある。
*下流での差別化より上流での差別化を目指す方が良い。もちろん小売店の場合には、立地や店舗そのものの魅力などという道は残されている。しかし、差別化には限界がある。小売店からみた上流での違いを出せればそれが差別化戦略となる。効率的なサプライチェーンを実施し、他社にはないストアブランドの商品を増やして行く事がそれにあたる。
*日本には個人金融資産が1500兆円あるといわれている。その70%近くを保有しているのは60歳以上の人たちである。この資産の一部を商品の形で吐き出す事が出来れば日本の内需拡大に貢献するはずである。政府は景気刺激政策としてこの眠った資産を掘り起こす事を考えなくてはいけない。
*日本の生産年齢人口は今後25年で25%縮小すると言われている。それに併せて一般消費財などの需要も同じようなペースで縮小して行く事が予想できる。
*一般的に金融緩和(金利下げる)は円安、金融引き締め(金利あげる)は円高と理解している。しかし今の日本は全く逆の状況である。

※林周二著「流通革命」
※モッテルリーニ著「経済は感情で動く」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 経済
感想投稿日 : 2012年9月3日
読了日 : 2012年9月3日
本棚登録日 : 2012年9月3日

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