予約で埋まっているはずの席が、ぽつんと空いている。
誰かが足りない。
誰かが足りない。(私は)いつもそう思いながら生きてきた(かもしれない)。大事な何かが足りない、その答えを探りながら私は恐る恐る読んでいたのかも。
足りないのは、もしかしたら、私ー。
ドキリとした。こんなに気持ちがはまるとは思っていませんでした。表紙のレストランらしきテーブルの椅子の絵、ミステリーの要素(誰かが消えたとか)があるかと思っていたら違った。
煉瓦造りの古い一軒家、屋根に蔦を這わせ建っている、予約を取るのも難しいレストラン「ハライ」。
10月31日午後6時、たまたま店に居合わせた客らの物語。
印象的だったのは予約4
母の病気、家族の形が変わってしまってから、部屋に引きこもっている主人公、僕。僕は、ビデオカメラを回してなければ外へ出られない。人に会えない、向き合えない。そんな兄の心を解きほぐす妹遥香と篠原さん。
「ビデオを通して話すのは、過去に向かって話しているようなものではないですか。今、ここに目の前にいる私を見て話してください」
篠原さんは言う。自分がいじめに合った時、遥香は私をぎゅっと抱きしめてくれた。遥の温かさが今だと気づいた。もう過去のことで震えたり泣くのはバカバカしいと思えた、と。だが、僕は生身は脆い、苦手だと。
そんな僕だが、徐々に心のリハビリをしてゆく。今を生きている目の前の相手に自分を重ねた。
10月の青い空。妹たちの笑い、美味しい食べ物。
笑い、涙、喜び、悲しみ、驚き、みんな「今」。
予約6も良かった。
何かあったときに乗り越えるコツを教えてもらいたい、と。あたし、不安なんです、大きなショックに弱いんです。精神力もないし、機転も利かないし。
一緒に共感してくれる人も必要だが、塞ぎ込んで息が詰まって、もう逃げ場がなくなったとき、誰かに笑ってもらったら気が晴れたりする。
笑っていいんだ、笑ったらいいんだ。そしたらもう怖くない、失敗も生きてゆくことも。
この言葉で気持ちが楽になりました。
好きなところ
誰かが足りない。そう思えるのはしあわせなことではないだろうか。誰かを待つ、満たされる日を夢見ることができるのだから。
- 感想投稿日 : 2020年11月5日
- 読了日 : 2020年11月5日
- 本棚登録日 : 2020年11月5日
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