「彼の人の眠りは、徐(しず)かに覚めて行った、まっ黒い夜の中に、更に冷え圧するものの澱んでゐるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。
した、した、した。耳に伝ふやうに来るのは、水の垂れる音が、ただ凍りつくような暗闇の中で、おのづと睫(まつげ)と睫とが離れて来る。」
これは、死者の書の書き出し部分だが、折口信夫の学者、作家、歌人という側面がみごとに結集し凝縮した文章である。川村二郎氏はこの本の解説の中で、『死者の書』は、明治以後の日本近代小説の、最高の成果である」と書いているが、まさに、日本文学更上ユーカラに匹敵する雄大な叙事詩ともいえる稀有な作品である。
死者の書は、政争に敗れた大津皇子復活の物語であるが、折口がこれを書いた理由の一つは、祖父造酒介が大和飛鳥座神社の神主であった事もあげられるだろう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本ー文学
- 感想投稿日 : 2012年6月25日
- 読了日 : 2012年6月25日
- 本棚登録日 : 2012年6月25日
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