イギリスは愉快だ (文春文庫 は 14-3)

著者 :
  • 文藝春秋 (1996年2月9日発売)
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本棚登録 : 335
感想 : 33
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林望さんのエッセイが面白いのは、イギリス人のものの考え方、文化、気候風土から不思議な伝統や習慣など卑近なテーマを取り上げていて、林望さん流に観察・分析している点である。時には辛辣なイギリス批判のようであっても、イギリスを理解し深く愛していることが伝わってくる。そのうえ、独特のウィットに富んだユーモアが散りばめられているから、面白さは加速する。

このエッセイ集は、ケンブリッジの北西、ヘミングフォード・グレイのマナーハウス(荘園領主の館で、1120年築!)に8か月近く滞在していた経験が中心に描かれている。滞在先が見つからず、たまたま残っていた物件が、ルーシー・マリア・ボストン夫人(『グリーンノウ物語』の著者)が住むこの家だった訳だ。この不思議な「導き」により、「イギリス中で一番幸せな日本人」となるのである。

ボストン夫人の豪快で優しい人柄が、随所に描かれている一方、最終章では足を挫いたのが原因で、闊達な大股歩きは影を潜め toddling しかできないほど弱々しくなり、そして亡骸となる夫人。人生の悲哀すら感じるのである。

この書を通して、イギリスの美しい自然や白人の上流階級の人たちの生活を、軽妙洒脱な筆致を通して体感できる。まことに「愉快」である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: グローバル
感想投稿日 : 2017年4月29日
読了日 : 2015年10月8日
本棚登録日 : 2017年4月29日

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