大学改革を問い直す

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  • 慶應義塾大学出版会 (2013年6月22日発売)
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この著書の一貫した問題意識は、昨今の大学改革において「課題相互の関連性や、これまでの歴史的な経緯に対する思慮や配慮を欠いた、『拙速』のそしりを免れない個別政策が、目まぐるしく打ち出され、それが混乱を招」いている点にある。そこで著者は、歴史学的・比較教育的な視点を踏まえながら、日本の高等教育政策や大学改革の諸問題の根源をひとつずつ明らかにしている。
その一例として、高等教育システムの問題を取り上げたい。
著者は「アメリカの高等教育が規範的にも構造的にも“脱工業化”の時代の諸要求に適合している」というトロウの指摘を紹介している。アメリカの「Higher Education Model」では、多様な高等教育機関が併存し、多数の私学もある。これらが志向しているのは、消費者である学生である。そして、システム全体に共通の基準を維持し監視する機関がない。このような無政府状態の教育機関群を一つのシステムとして纏めているのは、「無数のあらゆる種類の団体(職能団体など)」であるという。
一方、日本の場合は数多くの私立大学はあるものの、中央政府のコントロールを受けている。高等教育機関も種類は少なく、画一的な「大学」が多数を占めている。多様な目的・学力の学生を受け入れるシステムとしては、硬直化し過ぎているのである。
日本とアメリカとでは、大学を取り巻く社会的・文化的な背景が異なるため、アメリカの例を無批判に取り入れることはできないが、ユニバーサル化した大学のあり方を考える際に参考になる事例である。現在取り上げられている大学関係の諸課題も、昨今突然出てきた問題よりは、過去から何らかの形で議論されているもの多い。そのような先達の知恵と経験は大いに参考にすべきである。
いずれにせよ大学改革は、対処療法的に行うのではなく、それぞれ関連する諸課題をも包括させながら巨視的な視線で、かつ、自律的・主体的に取り組まなければ成功しないということだ。同時に政府は、教育システム全体や日本の雇用慣行も踏まえた、かつ日本の風土に相応しい教育システムの再編成のため、大局的かつ長期的な視野をもった緩やかなコントロールも必要なのだろうと感じた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 高等教育
感想投稿日 : 2017年4月29日
読了日 : 2013年12月9日
本棚登録日 : 2017年4月29日

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