上級国民/下級国民(小学館新書)

著者 :
  • 小学館 (2019年8月6日発売)
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感想 : 51
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本書を読むことで社会の変化の外観をつかむことができたというのが第一の感想である。オリジナリティは少ないものの、『言ってはいけない』などで社会問題のタブーをはっきり指摘する著者の情報編集力を目の当たりにすることができ、世の中のニュースやSNSで話題になっているトピックを客観的に、半ば傍観者的に見られる人であれば「なるほど」と納得のいく論が展開されている。

ではどうすればいいのか?という点は非常に難しい。社会の流れを個人の力で動かすことは難しい。個人としての最適化は現状を所与としていかに知識社会に適応するか、という観点から自分に投資することだろう。自分磨きとかいう生半可なものではなくサバイバルのための自己投資である。

結局それが社会全体を変える方法なのかもしれない。本書でも引用されている学問のすすめの本質は「教育は格差を拡大させる装置である、だから学べ」という点にある。多くが知識社会に適応できるならば社会の構造が変わるのである。未来はそこにしかないように思う。


ー要約ー

池袋の事故から始まる上級国民という言葉は一部の特権的エリートを指していっているのかもしれないが、社会では実はもっと大きな流れで「上級/下級」の分断が起きている。

国内の分断としてまずは団塊世代と氷河期世代以下の分断が描かれる。正社員が減少し非正規雇用が増えたという一般論に対して、実際に中高年の正規雇用に変化はなく、割りを食ったのが若年層であり、非正規の増加は女性の労働参加の促進の結果であることが神林龍氏の著作を引用して明らかにされる。


さらにグローバルに進行している分断という観点から、マイノリティに対するアファーマティブアクションなどの措置に隠れて、マジョリティに属しながら救済の得られないアンダークラス(下級国民)の存在を指摘する。

なぜそのような分断が進むのか? 著者は「知識社会化 ・リベラル化 ・グロ ーバル化lに適応できるかどうかが鍵だと論ずる。テクノロジーの進化によって個人が共同体の縛りから放たれて一人一人の自由意思によって自己実現をする。その行動は国境に縛られない。

この変化に適応できない人が多数いることが問題の本質である。テクノロジーの進化によりブルーワーカーが不要になる。資産を持つものと持たないものの差が歴然となる。国籍や人種などにしかアイデンティティを見出せないものが増えヘイトが膨らむ一方で知識層はその垣根を超えて仮想的コミュニティを築くようになる。

このような流れに対する反動がトランプ現象やブレグジット、イエローベスト運動に代表されるポピュリズムであるという。この分断に対する希望はkテクノロジーによる設計主義」というテクノロジーの驚くべき進歩が社会の難題を解決するという理想主義的な楽観論であるというのが著者の見方である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会問題
感想投稿日 : 2019年9月24日
読了日 : 2019年9月24日
本棚登録日 : 2019年9月24日

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