プーさんの鼻 (文春文庫 た 31-8)

著者 :
  • 文藝春秋 (2008年12月4日発売)
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感想 : 23
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第4歌集。
これまでの歌集と異なり、かなり円熟したやうな印象を受ける。同じテーマが続いてゐるといふのもあるだらうが、短歌が自然と馴染んできたのだらうか。さっくりと切れるナイフのやうな鋭さはなく、ことりと机の上に置かれたマグカップのやうな生活感がある。
このひとの生活は気づけば31文字で満たされてゐるのだらう。短歌的な思考とでも言はれるものだらうか。折に触れて心の動きを捉へた時、それが31文字になつてゐるのだと思ふ。よくも悪くも、短歌が当たり前になつた感覚。
やはり子どもをもつたといふことは短歌を詠むといふ行為に少なくない影響を与へたのだらう。この身に宿した子どもといふなんとも不可解でそして愛おしい存在を詠む。自分の中にゐるといふのに、自分の力の到底及ばない存在。自分の感覚が最も通じない相手。だからこそ詠む者は心の動きに敏感でなければならなかつたのだらう。
子どもは日々刻々と変りゆく。昨日できなかつたことが今日できるやうになつてゐる。日常といふ流れの中にはまつてしまへば見過ごされてゆくさうした驚きを捉へやうとすれば、じつくりと自分の中に沈み込んでいくやうな思考、切れ味はするどくもさつくりと深く傷を与へてしまふやうなことばでは、子どもを詠めない。話す人間を前にしてことば遣ひを無意識に変へるやうに、短歌もまた変はつてゆく。関係の中で生まれる短歌とはさういふことではないか。
また子どもが成長していつたり、自身が老いてゆけば出会ふものもかはつていくはずである。さうしてまた、短歌は見せ方を変へる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 詩集・句集・書簡集・対話集・エッセイ
感想投稿日 : 2019年5月28日
読了日 : 2019年5月21日
本棚登録日 : 2019年5月21日

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