山口県にある、住人わずか12人の限界集落。
ある男の手によって5人の男女が撲殺され、家を焼かれたという実際の事件を追ったルポ作品。
彼の手によって残された、不可解な俳句や、著者にあてた手紙、周辺人物の話を通して、郷に存在していた「うわさ話」と彼の凶行の間に存在する、確かな関係性に焦点を当ててゆく。
このルポでは、犯行に及んだ原因を、郷の住人がしていた「うわさ話」だとしている。妄想性障害を患う犯人は、そのうわさ話が、自分への中傷だと思い込んでしまい、近隣住民を次々と殺害。下着姿で山中に佇むところを、警察に発見される。
もともとの疾患があるかは別として、最近、うわさ話が驚くほど人を簡単に闇に引き摺り込み、時には命が失われてしまうといった、悲しい場面を沢山目にする。学校や、ママ友、そしてSNS。
実際にはたった数行の文章というとても少ない情報量をもとに、人は簡単に善悪や要否を判断し、自分とは無関係の個人を激しく攻撃してゆく。
犯人が人を殺めてしまった事実は決して許されることではないが、そういった殺意は、なんの前触れもなく自然と個人の中に生まれるものではなく、周囲の無自覚かつ、無遠慮な干渉が、それを引き起こしうる要因として確かに存在しているのだということを、改めて思い知らされる。
と、色々考えることはあったものの、この作品の半分くらいの内容は、事件を考察する上で蛇足と感じた。
事件内容や犯人の思考、様子に関してはとても興味深かったのだが、著者がこの郷を訪ねた際の、家々などを表す描写に「不気味」といったような主観が入ってしまったり、犯人からの手紙に対して「妄想」と切り捨てず、もう少し冷静な考察があっても良かったのではないかという、残念な感じがあった。
時間の空いたときに淡々と、一気に読み進めてしまうと良いかも。
- 感想投稿日 : 2020年6月2日
- 読了日 : 2020年6月2日
- 本棚登録日 : 2020年6月2日
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