天人唐草 (文春文庫 ビジュアル版 60-27)

著者 :
  • 文藝春秋 (1994年3月10日発売)
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本棚登録 : 487
感想 : 47
3

山岸凉子自選作品の短編集。夜叉御前より、わかりやすくて面白かった。

これもホラーといわれるが、彼女の作品は神話や昔話をベースにアレンジしたものが多い(ギリシャ神話とか民俗学とか)。

ネタバレになるが、中島らもさんの解説がめちゃくちゃよかった。的を得ているし、言い切るところも素晴らしい。

※引用
この一冊は五人の迷い子たちの、痛々しい道行きをそれぞれに描いた作品集だと言える。(中略)山岸凉子さんはこの子たちに何かの救いを与えるわけではない。突き放して淡々と迷い子たちの茫然自失を描写していく。(中略)この姿勢は作り手としてとても正しい。冷酷?ちがう。そんなことでは全然ない。冷酷なのは「世界」である。その巨大な混沌を前に、自失し立ちすくんでいる子供たちがいる。手を差し伸べる術などない。作り手はペンを握っているのだ。(中略)手を差し伸べてしまったら、その瞬間に作品は消滅する。見ること、作り手に許されるのはそれだけだ。「まなざし」が唯一与えられたものだ。だから作者とは、神のごとく無力なものなのである。フィクション?フィクションだから何なりとして迷い子を家路につかせてやれとおっしゃるか。なるほど、そういうものが好きな人にはそれ用の作家がいる。山岸さんを選んだあなたが悪い。

…と、なんと清々しいコメントか。彼はまた、現代に悩める青少年が、「完全自殺マニュアル」を手にとり、迷い子としてなぞらえている。大人ならそんなことしないだろう、というのが世の中の大半の常識だけど、彼らは「自殺マニュアル」をバイブルとしていないだけで、宗教・人生論・ビジネス書などなど、さもこれが聖書かのようにとらえているけれど、本質的な生に対する不安は、青少年のそれと何らかわらないと訴える。大人だって迷い子だと。気づいてないか、気づいて無いフリをしているだけで、大人とは、「かつての迷い子が行き迷い生き迷い、とんでもなくまちがった道をたどってその先の砂の中の村に辿り着いた、そのなれの果てなのだ」。愚鈍と忘却と教条が、迷い子から脱したと思わせているだけ。

冷酷なホラー。救いようのない読了感。それこそ現実的で、余計に恐怖心を煽るのかもしれない。

◼︎天人唐草
厳格な父に育てられ、自信喪失して生きてきた響子が、トラウマを負って発狂するまでのストーリー。ちなみに、天人唐草とは、イヌフグリのことで、フグリとは、犬のタマタマだそうな。

◼︎ハーピー
受験システムの世界で落ちこぼれ、プレッシャーから精神崩壊をきたす佐和くんの話。女のほうがコウモリ女かと思わせておいて、実は狂っていたのは男だったというトリック。

◼︎狐女
妾腹の息子として、本家から疎まれてきた理。何かと立てつきつつも、自らのルーツを探るが、行き着いた果ては、腹違いの姉と父親の、いわゆる近親相姦の果てに生まれたことを知る。さらなるメンタル崩壊。

◼︎籠の中の鳥
トリとは、死者の魂のもとに飛ぶ能力を持つ人。身体に障害をもっていることが多い。トオルは、その鳥人一族の中でも、無能な健常者としてそだつ。唯一の身寄りである祖母をなくし、食べていく術も知らないまま、社会に取り残されるが、そこで思いもかけない出会いと能力を発見する。この本、唯一のハッピーエンド。

◼︎夏の寓話
原爆の子の話。ある意味、浮かばれない霊としてホラーなんだけど、原爆について久々に考えさせられた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 【その他】コミック
感想投稿日 : 2013年11月26日
読了日 : 2013年11月26日
本棚登録日 : 2013年11月26日

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