コバルト文庫で辿る少女小説変遷史

著者 :
  • 彩流社 (2016年12月28日発売)
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本棚登録 : 249
感想 : 29
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読んでいる最中にふと、昔読んだ「理系白書」の中にあった「理系の人間のあいだでは知識はシェアされやすいけれど、理系の人間は非理系の人間へ説明するのが苦手なひとが多いから、理系的な知識を理解できる、非理系の人間への説明のうまい人材が求められている」という箇所を思い出しました。
アカデミズムをここまでわかりやすく、しかしクオリティを失わずに書けるのは、すごいことだと思います。
内容についてもそうですが、まずは作者さんのこの才能を高く高く評価したいですし、この本を書いてくれてありがとうという気持ちでいっぱいです。

私自身も、気づけば少女小説を読んでいた身なので、内容のすべてではありませんが、当事者(=消費者)として存在していた時期があり、なるほど、そういう世の中の流れに巻き込まれていたのかと納得しきりでした。

少女小説がどのような作家を輩出して、どのような作品が多く作られて、どのような歴史を迎えてきたのか、という事実ももちろん面白いですが、時代背景の移り変わりが実に面白かったです。
良妻賢母にならねばならないことが決定している時代のモラトリアム、開放感に溢れた時代、閉塞感にあえいでいる時代、不安定で不透明なものを嫌がる時代、社会進出に心踊らせる時代。
それはつまりは、日本の女性史でもあるのだなあと感慨深く思いました。今、世の中の女性が「当たり前」だと思っているいちいちは「当たり前」なんかではなくて、その当時の女性たちが悩み葛藤し、主張したり隠れ蓑を見つけたりして作ってきてくれたものなのだなと、改めて思った次第です。

口には出せない悩み事や、親しい人間には(だからこそ)聞けない内容があって、それに対する答えを求めるのは健康的な精神なのだなと思います。そして、小説は、そういう悩み事に直接的・間接的に答えを与えてくれるものなのだなと。

少女小説の多様性が失われてきていることは、数年前から意識せずとも感じていて、それが個人的には少女小説(特にコバルト文庫)から離れる原因のひとつになったなと思っています。
これまでの歴史の中で、何度も変革と変貌を続けながら、でも核の部分は変わらずに(一番最後にあった、久美沙織さんのおっしゃる「寄り添う」がそれに当たるのかなと)、これからも変わり続けているのかと思うと、これからまた多様性も戻ってくるんじゃないかと期待が持てました。

最後に。膨大な量の資料を、ここまで綺麗にまとめるためには、膨大な時間と膨大な力が必要だったと思います。それを考えると、本の値段は安いと感じました。
あと、章ごとにページの上部に入っている模様?が違うのですが、それが往年のコバルト文庫を思い出させてくれて、とても好感的でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 和書(さ行)
感想投稿日 : 2017年3月10日
読了日 : 2017年3月10日
本棚登録日 : 2017年3月10日

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