スローカーブを、もう一球 (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店 (2012年6月22日発売)
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本棚登録 : 644
感想 : 50

【概略】
 自負心が脈打っている。13年間のプロ野球生活を支えてきた「マウンドを守る」という自負心、その自負心、ブルペンで肩をつくる投手を見て傷つけられた。「なにしとんかい!」と江夏は心の中でつぶやいた。そんな江夏を救ったのは「オレもお前と同じ気持ちだ。ベンチやブルペンのことなんて気にするな」と江夏に声をかけた衣笠だった。1079年11月4日(日)小雨降る大阪スタヂアムでの日本シリーズ第7戦広島初の日本一を導いた「江夏の21球」をはじめとする日本のスポーツノンフィクション。

2020年09月09日 読了
【書評】
 ちょっと野球関連の書籍、それもピッチャーを中心としたゲームの機微がどんな形で描かれているかを知りたくて手にとってみた。自分の野球経験は、小学校で友人とゴムボールとプラスチックバットでやった程度。プロ野球鑑賞をちょっとするぐらい。強烈に印象に残っているのは伊藤智仁選手かな。
 恥ずかしい話、山際淳司さんの作品を読んだのはじめてなのだけど、凄いね。野球選手に限らないスポーツ選手の光と影を見事に描いてる。だからといって影(?)というか、一線を退いた(または退かざるをえなかった)選手についても、魅力的に描いてる。
 モスクワオリンピックへの日本を含めた西側諸国不参加という政治的な要素に振り回されたスポーツ選手不遇の時代というのもあって、現代のアスリートとはまた違った「匂い」を行間から感じさせる。
 個人的には棒高跳びの高橋卓巳選手にスポットライトをあてた「ポールヴォルター」のトーンが好きだったなぁ。高橋選手ご自身が、平凡な中学生から棒高跳びの選手として、まさしくポールの高さがあがるかのような選手としての成長をとげていく様子がよかった。決して恵まれた体格ではなく、でもその体格と置かれた状況を理解し、本当に1センチずつあがっていく様子がわかるような、そんな光景が目に浮かぶような描き方だった。ちなみに棒高跳びって「pole vault」っていうのだね。だから棒高跳びの選手は「pole vaulter」なんだね。
 タイトルとなっている「スローカーブを、もう一球」も、リズムがよくて、イイ。読後感がまるで美味しい紅茶を飲み終わったスッキリ感がある。ここでも「ポールヴォルター」と共通するのが、取り上げられている投手が速球派ではないこと。アスリートだから体格や筋力などの先天的な要素に恵まれてたりするのは良いことだけど、そうじゃなくても戦えるんだよってところにまた凡人としては惹かれるよね。
 将棋の駒のように、色々な動き方があって、色々な局面でその存在意義は示されるのだよってのを感じた一冊だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2020年9月10日
読了日 : 2020年9月9日
本棚登録日 : 2020年9月10日

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