インビジブルコンピュータ―PCから情報アプライアンスへ

  • 新曜社 (2009年6月1日発売)
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感想 : 6

コンピュータはその内部の構造や技術を意識する事なく、一般消費者に分かりやすいインタフェースを持ち、適切に使えるように設計されるべきであるというのが本書の主な主張である。
この本の原著は1998年に書かれ、当時はパソコンの全盛期であり、今のスマートフォンの原型の一つであるPDAもそれを活かすための無線通信技術も普及していない頃の事である。この本に書かれている「背後に隠れ、ユーザーに適切な情報のみを使いやすいように示す情報アプライアンス」は、今から見れば、スマートフォンによって、殆どが達成されている様に見える。
では、この本を今読む必要があるのかという疑問が当然あるだろうが、私は今だからこそ読むべきだと思う。
何故ならば、この本に書かれている視点によって、作り上げられたスマートフォンとそのエコシステムが、本書で指摘されている技術に偏り過ぎ、使い難いパソコンが占めていた席に座り、広く一般に浸透しているからである。
本書で行われている指摘は非常に的を射たものであり、1998年に書かれた本であるとは思えないほど、真っ当な指摘がされている。
技術について、普通の人よりも知っていると、蓄音機を発明したエジソンのように論理としては尤もに見えても、実際には間違った見方から使い難い製品を作ってしまう恐れがあると本書は技術者に指摘している。
技術について、知っているからこそ、普通の人がそれを見た時にどう反応するのかが分からなくなる恐れがあるのだ。
本書が主張する「人間中心の開発」が成功したからこそ、スマートフォンは爆発的に普及し、そのエコシステムの上で非常に多くのアプリケーションとサービスが動いているのだと思う。
ユーザーの大半は技術に精通した先進的な人々ではなく、そういった人々に寄り添わなければ、広く受け入れられるアプリケーションやサービスは恐らく作ることは無理なのだろう。
上述の理由から、本書の内容は未だに陳腐化しておらず、むしろ、本書の内容の大部分が達成された今だからこそ、読まれるべきだと思う。
この本には、これまで、形態を変えて、社会に広く浸透したコンピュータの今までの歩みを振り返ることに役立ち、そして、今後のコンピュータのあり方について考える基礎が書かれていると私は考える。
コンピュータの今後がどうなるかは、毎日の様に色々な記事がインターネットのニュースサイトなどから発せられるが、それらをどう評価するのかの一つの基準が本書を読むことで得られると思う。

読書状況:積読 公開設定:公開
カテゴリ: コンピュータ読み物
感想投稿日 : 2016年12月1日
本棚登録日 : 2012年11月16日

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