ごめん。 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2021年8月20日発売)
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本棚登録 : 85
感想 : 12
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加藤元さんの小説を読むのは『本日は、どうされました?』に引き続き2作目です。

今作は「ごめん(謝罪)」に関する短編集で、かつ登場人物が少しずつ繋がっている形式(連作短編集)です。

個人的に読み取ったテーマはこんな感じです。
・家族
・夫婦
・恋愛
・職場の人間関係
・近隣住民との人間関係
・ハラスメント
・男女差別(無理解)
テーマを拾ってみて改めて納得しますが、20歳以上推奨の作品ですね。子どもだからわからない、ってことはないと思いますが、「大人になってみると分かる、このしんどさ」という感じです。

謝罪が生まれる環境というものは、必然的に人と人が交わるところ、ということになりますが、この作品では始めと終わりが対になっていることで、中盤に挟まれるドロドロとした苦しい状況や、人間の愚かさのようなものをすっきりと後味良く整えてくれるところが良いなと感じました。
甘く始まり、苦味や酸味などのあとにまた甘み。そしてすーっと消える、という感じでしょうか。

しかし、文体の折々で挟み込まれる手厳しさと鋭さの混じったツッコミは読んでいて大変面白くもあり、その容赦のなさにキリキリするものでもあり。あまり体験したことがないもので新鮮でした。

『謝罪って、一方的に押しつけて済むものじゃないと思う』と文中にある通り、謝罪って難しいものですよね。
学童期には「謝りなさい」と先生や親から言われて謝る子どもと、それを受ける子どもがいる。そうして「謝ったんだから、仲直りね」と言われる、といった場面に出くわしたものですが、ひねくれものの私などは「どうして謝ったら帳消しになるんだろう。謝罪を受け入れることは、謝罪された瞬間から暗黙の決まりなのだろうか」などとモニョモニョ考えていたものです(面倒な子供ですね)。

到底謝って許されないことでも「ごめん」であり、ちょっとした行き違いでも「ごめん」である。その時々の言葉の重みは、発した本人にしか分からないものでありながら、実は受け取った本人にしか分からないものでもある。

大人になった今ならわかることですが、受け入れられることを前提にされた謝罪など、本来どこにも存在しないはずなのです。
わかり切っている大人がわかりきった嘘をついていることに、幼い子供は目ざとくも気づいていたのかもしれません。恐ろしい子。
私からは以上です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2022年2月3日
読了日 : 2022年2月3日
本棚登録日 : 2022年2月3日

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