「脳コワさん」支援ガイド (シリーズ ケアをひらく)

著者 :
  • 医学書院 (2020年5月18日発売)
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本棚登録 : 338
感想 : 27
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ライターである著者が脳梗塞後の高次脳機能障害の当事者体験と、援助者へ向けてのお願いを綴った一冊。
カラフルでポップな表紙と、語り口調から手に取りやすいですが、内容はしっかりと(!)ケアについての中核を語っています。

「ケアをひらく」シリーズは医学書とは違って専門用語の羅列なしに読める援助者へ向けたシリーズなのですが、本書は「脳コワさん」と著者が称する「高次脳機能障害」の人たちにスポットを当てた本です。

病前は実際に当事者からヒアリングをして記事を書いていたという著者ですが、そんな「実際に接する体験」を持つ人であっても、やはり当事者になってみて初めて気づいたことが多いということに、まず、この症状の複雑さ・難しさを感じました。
知識として知ってはいても、実際に当事者が感じていることのほんの少ししか理解はできていないものなんですね。

たとえが工夫されていることもあり、具体的に当事者が感じている不自由さ、情動などが想像しやすいところが著者ならでは、のポイントでしょうか。
確かに風にあおられながらグラグラの自転車を漕いでいるところに、色々と言葉を浴びせられたりすると転んでしまうよなあ、と思いつつ、実はどんな生活の場面でも接することの多い「受付」が鬼門であることにも驚きました。確かに受付の人って、脳コワさんでない我々からしても早口で聞き取りづらいし、忙しいとピリピリした雰囲気があったり、キビキビした”全能感”の漂う人を怖いと感じている人もいるのではないでしょうか。

個人的には、「健常者・障害者」や、「疾患のある人・ない人」に関わらず、やっぱり切羽詰まっていたり体調がすぐれなかったり、落ち込んでいたりすると過ごしにくい、「社会的な場面特有のやりにくさ」について、今いちど考え直してみて、誰でも極力ストレスなく日々を過ごせるようになることが一番だな、と感じました。

それは障害者福祉といって障害者に健常者が「譲歩する」とか、「やってあげてる」、「あわせてあげてる」、とかではなくて、皆が過ごしやすい社会にすることだと思うし、何よりそういうギスギスした場面とか誰かが困っている状態を放置して、出来る人だけ進んでいく社会って、なんか違うな、と思うんですよね。

日常的に意識していないとやってしまいがちな「相手から出てこない言葉を自分の言葉で置き換える」、「苦しい、不自由だという訴えを“できてますよ”と言って(訴えそのものを)否定してしまう」などは覚えておいて(語弊がありますが)損はないですね。
考えてみれば、普通に誰かと会話していて「いや、困っている風には見えないし、出来てるよ」って言うのは訴えそのものを否定しているし、寄り添えていないんですよね。でも、相手が「リハビリをしている人」だとそういう言葉を言ってしまいがちなんですね。
これはかなり盲点というか、なるほどなと思わせられた点でした。

脳コワさんに接する時だからこうする、脳コワさんだから特別な配慮をする、ではなくて、本当は誰かと会話をするときは相手の話調子を見ながらの方がいいし、ゆっくり・はっきりと話せるほうがいいよね、ということにも繋がっていくのではないでしょうか。

ある意味で最近注目されてきている「発達障害」が特別視されていることと同じく、「脳コワさん」が特別視されるが故に、それが高じて差別や特別扱いにつながらなければいいな、と思いました。
「そういう人もいるよね」と受け止めて、「じゃあどうしたら困りごとを減らせるのか?」という視点に立てたらもっと両者ともに苦労せずに済むのかもしれません。

かねてから気になっていた「最貧困女子」や「されど愛しきお妻様」の著者さんだったんですね。
またこちらも読んでみたいです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2020年12月26日
読了日 : 2020年12月26日
本棚登録日 : 2020年12月18日

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