「上から目線」の構造

著者 :
  • 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版 (2011年10月1日発売)
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「上から目線」について心理学博士の著者が論じた本。

本来、上から目線で当たり前の筈の上司の言葉に、部下が「上から目線ですね」と意見することに疑問を呈する形で話は始まり、「劣等コンプレックスを抱えた人間が陥りがちな心理状態」、「日本独自の自己愛」「大学生を例とした、空気を読む社会のジレンマ」「キャラをつくるということ」「日本人の視線に対する考え方・感じ方」、そして少し「引きこもり」について触れたかと思うと、「母性原理と父性原理」に至ってこの本は終わります。

読んでいて「なるほど」とか「そうなのか」と思えるところと、「いや、違うんじゃないか」「著者は(私と違って)そういう考えなのか」と思うところがはっきり二層に分かれていると感じました。

心理学博士が論じる心理学のお話は楽しいものが多く、自分の中にあるスキーマ(物事を捉える枠組み)で我々は物事を捉えている、という話はなるほど! と思いましたし、「世の中を勝ち負けの図式で見る人は人間関係も上下の図式で見ようとする」「自信のある人物は自分を変えることに抵抗がないが、自信のない人間は今の自分にこだわる」などなど、読んでいて興味をそそる心理学的解説がある一方で、
フリーターに対する意見であったり、クラス担任を引き受けたときの話、引きこもりや母性原理の話を読んでいると、「この人はクラスでカースト下位になったこともないし、どちらかというと中~上あたりにいた人なんだろうな」という感想を抱きました。
最終章でその思いは一層濃いものとなり、戸塚ヨットスクールが出てきた辺りで「ああ、この人はクラス担任にしちゃだめだな」と思いました。
(「体罰があったから俺たちの頃は不良が抑えられていたんだ」とか言う人なんだろうな、と)

「甘やかしてはいけない」という考えの中に、「寄り添って支えながら自立を促す」というものがこの方の中には無い気がします。母性原理と父性原理は二つで一つなのであって、母性に傾き過ぎてもいけないけれど、父性一辺倒であったならそれはそれで問題なわけです。

ただただ、時期が来たら乱暴に突き放してでも自立させなければならない。そうしなければ甘ったれた引きこもりや、フリーターを増産してしまう、とでも言いたげな内容に途中からは閉口してしまいました。

「前時代的な考えの人」という感じ、と言えばわかっていただきやすいでしょうか。頑固一徹。そういう感じ。
甘ったれが増えたから引きこもりが増えたわけではないと個人的には考えていますので、著者の意見とは全く合いませんでした。
あくまで心理学的コラムの部分を楽しむ目的でしたら、お勧めできると思います。

「上から目線」かどうかを決めるのは良くも悪くも受け取る側、なわけです。
昨今、「ハラスメントハラスメントとうるさくて何も話せないよ~」と言っているおじさまたち。そういう人を私は想像せずにはいられませんでした。
傷つけるばかりで傷ついたことのない人間や、傷ついたことを気にするなと教えられた人間には、弱き者、弱者でしか存在できない者の気持ちはわからないのでしょうか?
私はそうは思いませんが、その点への希望は本書では見出せませんでした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2022年4月4日
読了日 : 2022年4月4日
本棚登録日 : 2022年3月17日

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