本を読む人だけが手にするもの

著者 :
  • 日本実業出版社 (2015年9月29日発売)
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本棚登録 : 2676
感想 : 336

まず、この本に「本を読むことで得られる楽しいこと」を期待している人は、今すぐ書棚に返した方が良いです(笑)

「本を読む人だけが手にするもの」という題名から私が想像したのは「読書家だけの醍醐味」であるとか、「本を読むとこんなに楽しいことが沢山あるよ」という読書への手ほどき的な内容でした。
しかし、実際に本を開いて読んでみて感じたのは、この著者は「読書家とは似ても似つかない人物」であるということでした。

まず、読書を「何か自分がのし上がるためのツール」としてしか捉えていないように感じました。

[誰か取材対象の作家がいるとして、その作家の著作10冊のうちで5冊を借りてざっと読み、中から気になった台詞などを覚えておいて取材時にそこを取り出す。そうすると作家は自分の作品が理解されていると感じてくれる]

というようなことを書いています。人に取り入るために読書が必要だ、というわけです。

しかし、個人的に感じたことなのですが、そんな表面だけを掬い上げた感想や台詞の抜き出しで”取り入る”ことが出来ると思っているなんて、相手を舐めていませんか? ということです。作家は「ありがとうございます」くらいは言うかもしれませんが、真に自分の書いた作品を咀嚼せず、表面だけをさらったまでだ、ということに気づかない作家ではないでしょう。

ほかにも、文章を読んでいるとこの著者が、「肩書きで相手を理解する」「自分のやってきた事業で自分を相手に理解してもらおうとする」「ちょっと他人を見下すような感じがある」人物であることが感じられて私は嫌でした。

「読書ってどういう事が良いからした方がいいんだろう」
そんな純粋な気持ちの人にはこの本を手に取って欲しくないな、と思いました。

個人的な読書に対する意見をこの場を借りて言わせてもらうと、読書は「純粋な知的好奇心」から成るものである筈です。たとえ、最初は憧れの先輩に近づくためであったとしても、他人を出し抜くために読もうと決心したのであっても、読むうちに次々と関連した書籍、派生した物事について知りたくなるから、読書をするものだと私は思っています。

しかし、この著者にはその動機が感じられない。幼少期に嫌々自分に合わない世界の名作を読まされて読書嫌いになったと言っていますが、そこから精神的には読書に対する気持ちが変わっていないように見受けられました。
そんな人に「読書をするとどういうものが得られるのか」が語れるんでしょうか。甚だ疑問です。

読書の効能について嬉々として挙げているものは、特に目新しくありませんでした。読書をしない人たちをターゲットにして本を書いたのなら、読書というものを馬鹿にしている感じがするし、もともと読書をする人たちに向けて書いたのであれば、読者を馬鹿にしています。

読書をする人は読書というものが生活の一部になっているので「私、読書をするんですよ」とは言わないですよね。
それと同じだと気づきました。
全く、タイトルに惹かれた自分が間違いでした。

こういう甘いタイトルのものには今後、警戒するようにしようと思いました。

読書状況:読みたい 公開設定:公開
カテゴリ: レビュー済
感想投稿日 : 2021年1月14日
本棚登録日 : 2021年1月13日

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