自閉症の僕が跳びはねる理由―会話のできない中学生がつづる内なる心

著者 :
  • エスコアール (2007年2月28日発売)
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感想 : 183
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自閉症という障害への認識がガラリと変わった本。
今まで自閉症は知能や精神の障害だと思っていた。それも間違いではないと思う。実際、彼らの内面は自閉症ではない人の内面とはかなり違って、独特なものであることは確かなようだ。
しかしそれよりも何よりも、自閉症は身体と精神の接続不良の障害であるというように本書を読んで感じた。著者は何度も自分の身体を上手く扱えない、身体と馴染まないことに苦しさを訴えている。それは巻末の物語を読んでもわかるように、身体という牢獄に囚われている感覚なのだろう。

我々自閉症ではない人は、当然のように外側に現れていること(表情や仕草、言葉など)が内面を表していると思い込んでいる。空腹を感じれば「お腹が空いた」と言葉にして口から出す。それでコミュニケーションが成立する。しかし自閉症の人はこの精神→身体の接続がうまくいかず、単純な「はい/いいえ」といった言葉でさえも本当の内面とは違ったことを話してしまうことさえあるという。
これはとても恐ろしいことのように感じるが、自閉症でない人も類似した経験をしたことはあるのではないだろうか。たとえばお葬式の場面など、悲しいのに笑ってしまうこととか。

自分の身体がうまく制御できない著者の悲痛な叫びは、以前テレビで見たトゥレット障害に苦しむ人と重なった。彼らも意思に反して激しい動きをして時には自分や他人を傷つけてしまったり、叫び声や汚い言葉が勝手に口から出て行ってしまったりと自己嫌悪や羞恥に悩まされていた。ただ、トゥレット障害の人の場合は症状が出ていない時は発話による意思疎通は可能であるらしいのだが。
自閉症の人もトゥレット障害の人も、精神というより神経の問題なんだろうか。

同じコマーシャルを自閉症の人が好む理由が「知らない土地で知っている人と会ったらホッとするでしょ」という回答だったのはハッとさせられた。確かに外国に行って日本人に会ったら妙にホッとしてしまうし、実際日本人の店員さんと長時間立ち話をした経験もある。「日本人なんて今までたくさん話してきたし日本に帰ったらいくらでもいるのに、わざわざ外国でなんで嬉しそうに日本人とばっかり話すの?」と言われているような気分なのかな、自閉症の人が同じものを好むことに疑問を呈されるのは。同時に、自閉症の人がいつも「知らない土地」にいるような気分なんだと察せられて、なんて苦しい状況にいるんだろうと思った。

最後に。著者のように自分に合った意思伝達手段を見つけてコミュニケーションをとれるようになる自閉症の人が増えればいいな、と思う。
この本は新しい世界を見せてくれた非常に有益な本だが、あくまである一人の自閉症の人が書いた本であって、自閉症の人全員がこのように考えているわけではないだろうからだ。
「自閉症の人は~」と一括りにするのは「男は~」「女は~」はたまた「人間は~」と語るくらいの暴論だろう(このレビューでも何度かそういう書き方をしてしまったけれど)。あくまで理解の一助と認識するのがいいと思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2017年3月31日
読了日 : 2017年3月30日
本棚登録日 : 2017年3月31日

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