著者の自伝的要素を強くもった小説。
印象にのこる文体、文章作法であった。突然挿入される、童話の形をとった、現実を映し出す鏡、心象を描いた物語。
この『物語』部分がすこし取っ付きにくいため、星4つとした。内容だけあげるなら、星5つである。
最初は奇異な感じがしたが、実に見事な描写の数々であったので、読み進めるうちに『この描写が暗喩する、母親への複雑な感情は何か』と楽しみになってきた。
主人公の彼女だけが、この小説に登場するレズビアンではない、という点も興味深い。また、登場人物の彩が実に豊かである。
彼女を守ろうとできるだけのことをしてやる人、公平にチャンスを与えようとする人、惹きつけられる人、心変わりを自分のせいではなく他所に求める人、名に反して徳の欠片も持ち合わせない人。
こうした彩り豊かなサブ・キャラクターに支えられ、只の私小説ではない、一人のヒトのよろめきながらも歩く人生を描き出した小説が生まれたのだろう。
性的少数者であることが、これほど糾弾される世界でなかったら、この小説は別の形で、ひょっとすると執筆される必要すらなかったかもしれない。
評者は自分が性的少数者であるがゆえに、「レズビアン」にとどまらず、あらゆる少数派であることの生きづらさを想う。
宗教カルトの体裁を取らずとも、この現代日本社会とて同じくらい、少数派には狭量なのだから。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
娯楽小説21世紀家族問題
- 感想投稿日 : 2014年4月22日
- 読了日 : 2014年4月22日
- 本棚登録日 : 2014年4月5日
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